女医の増加は必然的に特定の診療科への偏在を加速する。彼女たちに人気がある診療科は皮膚科、産科、眼科、麻酔科だ。女医が占める割合は、それぞれ49%、46%、37%、37%だ。産科を除き、当直や緊急の呼び出しの負担が少ない診療科だ。現在でも女医の3割が出産・子育てを理由に辞職している。地方勤務を義務づければ、「医師を続けることにはこだわりはない(都内の女性勤務医)」人たちが辞職するだけだ。

 厚労省は、さまざまな機会に「病院における柔軟な勤務形態等、妊娠・子育て中の女性医師の就労継続・復職支援に資する取組の推進」と打ち上げているが、この程度のことは地方病院はとっくにやっている。

 地方に欲しいのは、自分の子供を入学させてもいい進学校だ。東日本大震災の被災地の市長は「ここに開成高や灘高が来たら、女医はもちろん、若いお母さんが大量に移住してくる」という。女医が求めるのは、子供の学校であり、それは一朝一夕にできない。

 実は、女医の増加による医師偏在を穴埋めしてきたのは、中高年の男性医師たちだ。この世代のジニ係数はもともと低いのに、この10年でさらに減少した。この層が医師全体の37%を占める主流派で、女医の増加による医師偏在の悪化を埋め合わせている。結局、医師偏在を埋め合わせたのは、医師数の増加ということになる。

 40代以降の男性医師が、地方病院に異動する理由は二つだ。一つは体力。勤務医の1週間の平均労働時間は53・2時間。35%は毎月60時間以上の残業をこなす。20代、30代なら兎も角、中高年になると体がもたない。地方の慢性期病院でのんびりと過ごしたいと考える医師が増えてもおかしくない。

 もう一つは金だ。特に東京の勤務医の給料は安い。東京は、医師は多いが看護師が少ない。診療報酬の抑制に対応するため、医師の給与を切り下げてきた。都内の大学病院なら、教授クラスでも年俸は1000万円に満たないことがある。一部の有名教授は患者からの謝金や、製薬企業からの講演料などで高額の収入を得ることが出来るが、大部分の教授はアルバイトで食いつなぐ。部下の生活はもっと悲惨だ。40代の助手クラスなら年収は700万円程度だ。平日は勿論、週末も当直バイトに精を出す。知人の私大の外科系准教授は「平日の病棟は無医村です。医局員は手術室か外来、あるいはアルバイトに行っています」と言う。最近、都内の私大病院で不祥事が続くのも宜(うべ)なるかなだ。
(iStock)
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 医師の給与は完全な市場メカニズムで決まる。首都圏も埼玉県北部までくれば、40代の内科医で年俸は2000万円を超すのも珍しくない。住宅ローン、教育費を抱える中高年医師にとって、このような病院での勤務は魅力だ。