―留置場に入れられてからも、壮絶な経験をされましたね。「留置場弁当」の食材は質素で味付けは薄い。なるべく被疑者に糖分と塩分を摂らせないことで、集中力と抵抗力を奪い、自白に追い込むためだと推察されています。就寝中にも照明を消してくれず、手で目を覆ったりすると、注意されるという。(拷問の禁止を定めている)憲法無視も甚だしいと感じました。

冲方:拉致、監禁、拷問。いわれのない罪で留置場に放り込まれた人も、その瞬間から、人権から逸脱した世界をさ迷う羽目になるわけです。たとえば、布団のたたみ方には模範とされる例があり、それが写真で示されている。少しでも向きが違ったりすると、布団が没収され、冷たい地べたで寝ることを強要される。

―いちおう先進国と呼ばれる日本において、そのような人権無視が平然と行なわれているとは……。

冲方:留置場で一緒になった外国人が「こんな所は初めて見た」といって驚いていました。その方は5カ国で刑務所に入った経験があるそうですが(笑)、「日本の留置場は最悪だ」といっていました。
(iStock)
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―冲方さんは9日間にわたって留置場に閉じ込められた挙げ句、釈放、不起訴処分となりました。このような誤認逮捕や冤罪を生み出しかねない「司法組織の悪しき体質」を告発することが、本書執筆の動機の1つであると思います。それを防止するには結局、密室での「自白の強要」を迫るような取り調べの方法をやめるしかないと思うのですが。

冲方:そうですね。さらに大事なのは、国民がそうした「司法組織の悪しき体質」についてもっと知ることでしょう。国民が知ろうとしないから、警察の捜査方法もどんどん密室のなかに閉じこもってしまう。司法組織に対する国民の無関心は、日本がこれまで平和であったことの裏返しなのかもしれません。

 また、危ないものは危ない所に押し込めてしまおうとする日本独特の“地政学”も、司法や警察の実態から一般の目を遠ざけています。たとえば東京なら、新宿の歌舞伎町にいかがわしい店は全部集約させてしまう。普通の国民は、それを取り締まる警察の実態について何も知らずに生活を送ることができるわけです。