こうした流動性(mobility)の高まりは、人びとが一つの自治体の枠を公然とはみ出し生きることを後押ししている。通勤や通学、レジャーや買い物のために市町村をまたがり移動することも珍しくなく、結果として自治体も人の生活を支える基本的単位としての意味をますます小さくしている。

 それを象徴的に示すのが、地方中核都市を取り囲むように立つショッピングモールである。福島県伊達市や長野県千曲市や須坂市のように、近年、地方中核都市に隣接する市町村でモールの出店計画が問題になっている。
国内最大級の商業施設「イオンモール木更津」が開業した。=2014年10月14日、千葉県木更津市(中辻健太郎撮影)
国内最大級の商業施設「イオンモール木更津」が開業した。=2014年10月14日、千葉県木更津市(中辻健太郎撮影)
 小さな自治体は雇用の場を獲得するため、また固定資産税を得るためにモールの誘致を望むが、中核都市は現在の商業環境を守るためにそれに反対する。こうした対立が起こるのは、根本的にいえば近年のショッピングモールが1つの自治体に収まりきらない商圏をもっているためである。他市町村、さらには他県からの客を引き寄せるモールは珍しくなく、そうしたモールの出店・退店は地域の商業・雇用環境や人の流れを変えることで、しばしば一つの自治体の枠をはみ出す問題を引き起こす。

 こうして少子高齢化や産業構造の変化に加え、地域を越える情報や商品、人の流動が加速するのに伴って、地域を統治する単位としての自治体の意味も問い直されつつある。
 
 以上のような視点から今回の大川町の出来事をみると、疑問点と可能性の二つがみえてくる。

 まず宇一つ目の疑問点は、なぜ大川村では合併やより大きな自治体への行政委託が進まないのかということである。村民の数が減り、村議会に任せた間接民主主義が困難になっているのであれば、最も合理的に考えられるのは、自治体の自立を放棄し広域的な行政機構への編入を視野に入れるという道である。

 実際、情報や商品が自治体を超えて飛び交い、人の移動も流動化している今では、広域自治体のほうがより効率的で、民意に添った政治ができるという可能性もある。

 これまでにも、多くの市町村が明治・昭和・平成の大合併で統合・廃止の道を選んできた。1888(明治21)年に7万1314あったとされる自治体は、現在1718にまで淘汰(とうた)されている。大川村の場合すでに2003年に、隣接する土佐町に合併を拒否されたという事情がたしかに大きい。しかし、その上で県境を越えた越境合併や、国や県などへの行政の委託を真剣に考慮すべき時が来ているのかもしれない。

 一方で、こうした行政の広域化と委託をあくまで前提としてだが、今回の大川村の選択には大切な可能性も含まれている。

 まず行政が専門化し複雑化した現在では、直接民主制を前提とした総会がすべてを決めるというのは現実的ではなく、広域的な行政に任せたほうが効率的な行政運営ができる場合が多い。

 では今回想定された全員参加の総会は、実際何ができるだろうか。祭りや慶弔の付き合いといった町内会的な業務に終わるのか。あるいは国やより広域的な統治機構に向き合い、地域の立場を主張する力を発揮できるのか。

 現状、情報や商品や人の移動が加速しているなかで、そもそも「自治」を有効に行っている自治体は多くないといえる。そのなかで今回の大川村の試みは、「自治」として何を手放してはならず、何を手放してよいのかを問い直す、日本全体にとっても意義のあるものになると期待されるのである。