韓国では最近まで姦通罪、貞操に関する刑法が成立していたが、これらは女性だけに強いられた儒教的な貞操観である。戦前の植民地時代の朝鮮にも、姦通罪の刑法があった。日本は戦後になって廃止した。一方の韓国では、一夫一婦制の婚姻制度を保護して夫婦の間で貞操義務を守るようにするためのものであり、「廃止されれば性道徳が紊乱になりえる」として、逆に、1953年に新しく刑法を設けた。もちろん、「私生活の秘密、自由を過度に制限するので違憲だ」と、一方では反対意見もあった。そして、韓国の憲法裁判所は2008年2月26日になって、その刑法の規定が憲法違反であり無効であると判決した。
韓国の憲法裁判所
韓国の憲法裁判所

 私は、慰安婦問題が登場する以前の韓国の教科書で、「モンゴルから侵略された時、女性供出を恐れ『早婚風習』が生まれた」と学んだ。また、壬辰倭乱(秀吉の朝鮮出兵)で倭が女性の貞操を蹂躙したということが、女性に礼儀作法を教える教科書の「内訓」にも書かれていた。つまり、当時の朝鮮の重要な国是の一つが、こうした「貞操」であったといえる。今の慰安婦問題も、根底には、このような性意識や貞操観が横たわっているのである。

 儒教的な性のモラルでは、「一夫従事」すなわち女性にだけ夫への貞操が強調される。つまり、基本的には「女性に限って」、貞操を守ることを強調したのである。キリスト教の性モラルで、男性の禁欲が強調されているのとは違う。

 私は、このような朝鮮社会の代表的な女性教育テキストであった『内訓』や『女範』等を分析して、批判的な見解を学会に提示したことがある。韓国人は貞操観が強いと思われているが、それは女性にだけ求められており、実際には男女差別を基礎としているのである。

 ただ、こうした慰安婦問題を反日感情に載せると、国民統合や外交の効果が倍増する。だから政治家は世論を引き上げるために貞操感を持ち出す。そして、元慰安婦の人権を著しく傷つけたことへの誠実な謝罪が必要だと主張する人権主義者たちやフェミニストたちとも連携しやすくなる。

 このように、韓国政府は常にセックスや性倫理を政治に利用してきており、今もそれが日韓において不和の火種になっているのである。

 戦争の被害は多方面にわたるが、虐殺や性暴行などは、後々までも追及される。日本を取り巻く環境には、反日文化圏がある。私は、韓国、北朝鮮、ロシア、中国、台湾、東南アジア諸国を訪れるたびに、反日について見て、聞いてきた。中でも韓国の反日が、一番強く感ずる。それは植民地の歴史と戦後の国際関係によるものであろう。他の地域に比べて、朝鮮民族が初めて異民族支配を経験したというのが、大きな理由だといえる。北朝鮮より韓国の「反日」が強いのは、戦後の北朝鮮は「反米」が主であるからだろう。

チェ・キルソン 東亜大教授、広島大名誉教授。1940年、韓国京畿道生まれ。1963年、ソウル大師範学部卒。現職のほか、東亜大東アジア文化研究所所長も務める。専門は文化人類学。著書に『韓国の米軍慰安婦はなぜ生まれたのか』(ハート出版)、『韓国のシャーマニズム』(弘文堂)など多数。