ガチンコで22回優勝した貴乃花親方が、ガチンコを貫いたからこそ「相撲道」を追求し、相撲はどこまでもフェアでなければいけないと考えるのは十分に理解できる。しかし、どんなに歴史をさかのぼっても、相撲に「道」など存在しない。あるとすれば、それぞれの力士のなかにそれぞれ別個に存在しているだけだ。そして、それらは多くの場合、単に相撲はこうあらねばならないと洗脳された結果だ。

 貴乃花親方は、「偉大なる阿闍梨(あじゃり)」池口恵観法師に送ったメールに《“観るものを魅了する”大相撲の起源を取り戻すべくの現世への生まれ変わりの私の天命があると心得ており、毘沙門天(炎)を心にしたため己に克つをを実践しております》(原文ママ、『週刊朝日』2017年12月12日号)と書いているので、「張り手&カチ上げ横綱」としてもっと稼ごうとしている白鵬より、はるかに志が高い。しかし、相撲教習所に掲げられている「角道の精華」を信じているので、こうなるとまるで新興宗教に洗脳された殉教者だ。

 「相撲道」=「角道」という以上、「相撲とはなにか?」を具体的に定義しなければならない。そうして初めて「道」として語れる。では、相撲とはなんだろうか。これに関しては、私に忘れられない思い出がある。以下、その思い出のもとになる『週刊文春』のコラム記事を引用する。

“縄好調”千代の富士に英国賭博会社の大ボヤキ

 千代の富士の意外な(?)絶好調に青ざめているのがダイノサイト社。おなじみ英国政府公認の賭博会社だ。
 九州場所の優勝力士当てで、病み上がりの千代の富士に5倍のオッズをつけたら投票が殺到。10万円単位で勝負してくる客がいたりで、最終オッズは2.2に下がってしまう。
「しかし、オッズ5倍のときに買った客は5倍の配当が支払われるため、千代が優勝したら胴元は大赤字です」(関係者)
 旭富士は胴元のつけた2.8倍のままで、北勝海は3.5倍→3.8倍、霧島は4倍→3.4倍と大きな変動がなかったのを見ても、千代に大量投票が集まったのは明らかだ。
「胴元、日本シリーズのMVP当てでも、デストラーデに40倍をつけて3千万円近い赤字を出した。『日本人は遊びを知らない、本気で大金を賭けてくる』とボヤいてます」(同)
 エコノミック・アニマルをナメたらいかんぜよ。

 とのことなのだが、この後、英ブックメーカーは本当に青ざめることになった。千代の富士が優勝してしまったからだ。これで多大な損失をかぶったうえ、さらに富山県在住の日本人会員に任意の2力士のマッチベットに大金を賭けられてこれも当てられ、なんと2500万円もの配当(リターン)を払わなければならなかったからだ。
1989年7月、大相撲名古屋場所千秋楽の優勝決定戦、上手投げで北勝海を下す千代の富士。奥は審判をする北の湖親方
1989年7月、大相撲名古屋場所千秋楽の優勝決定戦、上手投げで北勝海を下す千代の富士。奥は審判をする北の湖親方
 このとき、知り合いの日本在住の英国人記者が、私に聞いてきた。彼はブックメーカーが本命にした横綱旭富士を買って外していた。