この成功の最大の理由は、活火山である有珠火山に寄り添って、この火山の息遣いを長年にわたり注意深く観察する「ホームドクターチーム」が存在したことだ。一般に火山は個性が強く、噴火に至る経緯やその規模は火山によってさまざまである。したがって、火山噴火に備えた監視を行うには、有珠火山での成功例を踏まえた体制が必要不可欠であるが、現状では、このようなホームドクターチームが常駐する活火山は数例にも満たない。外国の有名雑誌に発表する論文の数を業績評価の柱とするような大学では、このような観測研究は推奨されないのだろう。政府主導で、気象庁と大学、そしてリスク管理を実施する自治体を含めた一元的な火山監視体制を作ることが喫緊の課題である。
激しい噴煙をあげる有珠山=2000年3月31日(産経新聞社ヘリから、後藤徹二撮影)
激しい噴煙をあげる有珠山=2000年3月31日(産経新聞社ヘリから、後藤徹二撮影)
 一方で、火山大国・技術立国日本として世界に先駆けた火山研究を実施することも必要である。現状の火山観測は、噴火を引き起こすマグマの蓄積や移動を、それに伴う火山性地震の発生や、山体の膨張などの間接的な現象で検出しようとしている。いわば、腹痛の場所や痛みの種類、それに腹部の腫れなどの病状で病気を特定しようとしているようなものだ。

 現在では、多くの病院でこのような異常が認められた場合にコンピューター断層撮影(CT)検査によって異常の原因を特定し、定期的にCT検査を行って病巣の変化を確認することで治療に役立てている。同様に、火山直下に存在する「マグマ溜(だ)まり」の位置や大きさを正確に可視化することができれば、噴火予知・予測は大きく進展すると期待される。病院のCT検査ではX線を用いるが、火山の場合には地震波や電気抵抗を用いることでマグマ溜まりをイメージングすることは可能である。確かに、原理的に可能であるこのような「検査」を実際にやってみせることは簡単ではない。しかし、だからこそわが国が行わねばならないのではないだろうか。

 「異変」という言葉が大好きなマスコミ界では、しばしばあの「3・11」以降、列島は「大地動乱期」に入ったと報道がなされる。また「あおり系」の科学者の中にもそのような発言をする者がいる。超巨大地震が発生した結果、日本列島全体が異常状態となり、そのために火山噴火や地震が誘発されるというのだ。しかし結論を先に述べると、ここ数年の火山噴火の多く(西之島、御嶽山、阿蘇山、霧島山、桜島、口永良部島)は3・11とは関係なく、それぞれの火山の当然の息遣いによる結果である。

 日本海溝沿いで発生する巨大地震は、太平洋プレートが沈み込むことで蓄積されたひずみが一気に解放されることで起きる。だから、地震発生前は太平洋プレートによって強烈に押し縮められていた日本列島は、地震後には逆に伸びた状態となる。この応力の劇的な変化は火山活動の活性化をもたらす可能性がある。