この応力変化と火山噴火の因果関係は、火山の直下にある「マグマ溜まり」を缶ビールに例えると分かりやすい。十分なエネルギーを蓄えたマグマ溜まりを再現するために、缶ビールを少し振っておくことにしよう。この状態で栓を開けると、ビールが泡とともにあふれだす。同様に、圧縮から引き伸ばされた、つまり圧力が低下した状態になったマグマ溜まりでも、マグマに溶け込んでいた水や炭酸ガスなどの揮発性成分が発砲現象を起こして一気に体積が増加し、噴火に至る可能性がある。実際3・11以降、東北・関東地方のいくつかの火山、そして富士山でも火山性地震の異常が認められた(図1)。また、20世紀以降に発生したマグニチュード9クラスの超巨大地震で、例外なく近隣の火山が噴火したことも、このメカニズムによるものであろう。
図1 3・11前後の日本列島の応力状態の変化と火山活動
図1 3・11前後の日本列島の応力状態の変化と火山活動
 3・11前後の日本列島の応力状態については、国土地理院が展開するGPSネットワークの結果を見れば一目瞭然である(図1)。東北から関東地方では応力状態が一変したが、中部から西日本にかけてはほとんど変化していない。すなわち、九州の火山や御嶽山、それに西之島は、東日本大震災の影響を受けて活動したものではなく、いわば「日常的な」営みなのである。

 一方、浅間山や今回の草津白根山の噴火が上記のような応力状態の変化によって引き起こされたものであるかは判断が難しい。いずれにせよ、科学的に見る限り、3・11以降日本列島全体が火山活動期に入ったとは考えにくい。ただし、安心は禁物である。この列島にはいつ噴火をしてもおかしくない活火山が111座もあり、しかも図に示したような「ポスト3・11」の応力状態が数十年は続くことが予想される。
 
 草津白根山の麓に名湯として知られる草津温泉があるように、火山大国日本には約3100の温泉があるといわれている。私たち火山大国の民は、温泉の他にもいろんな火山の恩恵に浴している(詳しくは拙著『和食はなぜ美味しい』(岩波書店))。もちろん恩恵を享受することは大変結構なことであるが、同時に火山の試練についても理解しておくことも必要であろう。

 そのためにまず大切なことは、火山の寿命が数十万年以上あることだ。一般には、おおよそ1万年以内に活動した「活火山」以外は大丈夫、という認識があるのではなかろうか。実は、火山の寿命を考えるとこの認識は明らかに間違っている。ぜひ念のために、第四紀(約260万年前から現在まで)に活動した火山をインターネットで確認いただきたい。
図2:災害や事故の「危険値」
図2:災害や事故の「危険値」
 もう一つ「覚悟」しておかねばならないことは、「巨大噴火」や「超巨大噴火」も将来必ず起きることである。地震や噴火の規模と頻度には逆相関関係があり、大規模なものの発生確率は低くなる。一方で、規模が大きくなるとその被害は劇的に増大する。例えば今後100年の発生確率が1%といわれる「巨大カルデラ噴火」は、最悪の場合1億人以上の被害者を出す。災害や事故に対して覚悟を持って対応するには、被害者数に発生確率を乗じた「危険値」が参考になろう。