貴乃花親方の得票はわずか2票。これは、貴乃花親方が政治的な動きや裏工作をしなかった表れと見ることもできるだろう。「清々しい笑顔の裏には、裏取引が成立した」という勝算があったのではなく、自分の進むべき道が改めて見えた。そのことを晴れやかに示したのである。

 貴乃花親方はブログの中で、下記のように綴っている。

「改革するのではないのです。古き良きものを残すために、時代に順応させながら残すのです」

「相撲は競技であると同時に日本の文化でもあります。つまり我々は文化の守り人であるということも忘れてはなりません」

 相撲協会が公益財団法人である以上、理事が選挙で選ばれるのは当然である。一方で、文化を重んじるのであれば、投票や政治的な駆け引きは必ずしも馴染(なじ)まない。その道の継承者、次代のリーダーは自ずと決まって行くのが、歌舞伎であれ、華道や茶道の家元であれ、伝統芸能や文化の流れである。貴乃花親方も、北の湖前理事長とはそういった思いや使命感を共有していたのではないだろうか。

 一門内での「談合」も、今は権益を守るための策謀のように語られるが、利権を他に渡したくないためだけの慣習ではなかっただろう。文化芸能の世界は、達人や名人に対する崇敬の念が基本にある。

日本相撲協会の北の湖前理事長の銅像の前で記念撮影する
(左から)貴乃花理事、八角理事長、(1人おいて)とみ子夫人、
横綱日馬富士関=2017年10月1日、川崎市
日本相撲協会の北の湖前理事長の銅像の前で記念撮影する
(左から)貴乃花理事、八角理事長、(1人おいて)とみ子夫人、
横綱日馬富士関=2017年10月1日、川崎市
 はっきり感じるのは、貴乃花親方が自分の利益のために協会の要職に就くつもりはなかったという事実である。相撲を取った経験のない日本人が増えている。力士になりたいと思う少年が、今どれほどいるのだろう。大相撲を取り巻くあまりに厳しい現実と切実への危機感。このままでは入門者がいなくなり、興行だって立ち行かなくなる。もはや大相撲は「絶滅危惧種のような存在」になっていると、貴乃花親方は認識し、他の親方も薄々感じている。だが、そうした危機感も組織を変革するうねりにはならなかった。

 北の湖理事長の右腕として、吉本新喜劇の舞台に立ってまで大相撲のPRをし、それが「スー女(相撲女子)」ブームを生み出したと言われる貴乃花親方。次の2年間は、進境著しい4人の関取を持つ親方として土俵を沸かせる仕事もできる。今回の落選で貴乃花親方が失うものは決して大きくない。