このサイトは、パーソナライズ機能等を活用したサービス提供のためクッキー(cookie)を使用しています。このバナーを閉じるか、閲覧を継続することでクッキーの使用を承認されたとみなされます。詳細はこちらをご確認ください。詳細

北朝鮮乗っ取り「平壌五輪」金正恩の真意

『李相哲』

読了まで7分

李相哲(龍谷大教授)

 平昌冬季オリンピックが平壌に乗っ取られるのではないかという懸念が現実味を帯びてきている。1月22日、韓国の国会議員会館で開かれた韓国の「党政協議会」で与党「共に民主党」政策議長の金太年(キム・テニョン)は「地球村の祝祭である冬季オリンピックが来月、平壌で開かれる」と発言し、周りが慌てる珍風景がテレビを通して伝えられた。国会議員すら平昌五輪を「平壌五輪」と勘違いするほど平和の祭典であるはずの五輪は南北の政治ショーの場に変わりつつある。

 そもそも北朝鮮で五輪参加の資格を取得したのは2人。フィギュアスケート男女ペアのみだ。北朝鮮が2人のために140人の芸術団に229人の応援団、各種名目の支援チームなど500人にのぼる人員を送るわけがない。他の目的があるからだ。

 時間稼ぎと国際世論の分断、韓国国内の攪乱(かくらん)、北朝鮮のイメージ改善などさまざまな目的もあるが、何より重要なのは国際社会の包囲網を崩すことだ。国際社会の制裁に苦しむ金正恩(キム・ジョンウン)政権は、平昌五輪を利用して制裁の包囲網崩しに取り掛かっているが、まずは一番もろい韓国にターゲットを絞ったとみられる。

 その思惑は五輪が始まる前に既にはっきりと表れている。平昌五輪の前夜祭に芸術団を派遣すると表明した北朝鮮は1月21日、玄松月(ヒョン・ソンウォル)を団長とする実務者代表団を韓国に送り込んだ。
韓国のホテルに到着した北朝鮮応援団とテコンドー演武団の一行=2018年2月(共同)
 一時、金正恩委員長の「愛人」との報道がながれ、韓国でその名が知られるようになった玄の訪韓は、世界中の注目を浴びた。北朝鮮の存在感を遺憾なく世界中に知らしめた玄の訪韓は、韓国に「南南葛藤(韓国国内の世論を分断し、韓国人同士で喧嘩をさせること)」を誘発、反発を買う場面もあったが、なにより「5・24措置」(2010年、北朝鮮が韓国の軍艦を爆沈させ、40人の兵士が水死、6人が失踪した事件を受け、韓国政府が科した制裁措置)を無力化するという目的の一部は達成した。

 現在南北をつなぐ陸路は主に三つ。南北軍事境界線沿いに設けられた南北共同警備区域の板門店を通るルート、金大中(キム・デジュン)大統領時代に着工、2004年に稼働をはじめた「開城工業団地」を経由して韓国の坂州市に至る京義線ルート、そして朝鮮半島東海岸沿いの金剛山観光のために開いたルートだ。

 玄が韓国にやってきたのは開城工業団地ルートだったが、直後の1月23日、金剛山で行われる予定の文化行事(後にキャンセル)のための施設点検名目で北朝鮮を訪れる韓国代表団は金剛山ルートをつかった。これで制裁を課した三つのルートのうち二つが事実上、「開放」されたことになる。

 北朝鮮は、当初、芸術団員140人は板門店ルートを通って韓国を訪問したいと持ちかけたが、土壇場(どたんば)になってルートを変えた。五輪開幕まで4日しかない2月4日夜、北朝鮮は唐突にも北朝鮮の芸術団「三池淵管弦楽団」を万景峰号にのせて海路を使って韓国に行くと通報してきた。

 目的は韓国独自制裁を無力化するためだ。2010年5月以降、韓国は北朝鮮の船舶の韓国港へは接岸を禁止している。朴槿恵(パク・クネ)政権時代の2016年3月以降、韓国政府は北朝鮮に寄港したことのある船舶は180日間韓国の港に寄港できない措置を取った。そのような制裁措置を取り崩すために、いま南北が共に躍起になっている。

 三池淵管弦楽団一行が平壌を出発したのは2月5日、韓国政府の韓国政府が海路を使っての入国を許可するかしないかで「慎重に検討」している最中だった。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「例外措置」として万景峰号の入港を認めると発表したが、事前合意があったとしか思えない。海路の利用は合意文書にはなかったが、水面下で南北は、北朝鮮代表団の訪韓につき、原則的に如何(いか)なるルートを通じてやって来ようが許容することにしたのではないか。
警官隊と入港に反対する人たちが衝突する中、韓国東部・東海市の港に入港する北朝鮮の貨客船「万景峰92」=2018年2月(共同)
 空のルートもそうだ。1月31日、韓国はチャーター便を借りてスキー選手を含む45人の代表団を北朝鮮に送った。韓国政府は、アジア最大規模を誇る馬息嶺スキー場で北朝鮮選手らと合同訓練を行うために選手団を送ると説明したが、目的は他にあったようだ。北朝鮮に送り込んだ選手らは平昌五輪の出場権を持っていない選手のみ。しかも訓練はたったの3時間ほどだった。

 国連制裁決議「2270号」は、国連加盟国は、北朝鮮に航空機、乗務サービスを提供してはならないことになっている。しかもアメリカは北朝鮮に乗り入れした飛行機のアメリカへの入国を禁止する措置を取っているが、文政権は「例外措置」として北朝鮮へ航空機を飛ばし、閉ざされた空路を開けてあげたのだ。

 平昌五輪が開幕する9日にソウルを訪問すると発表した北朝鮮の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議議長(名目上北朝鮮を代表する役職)は、世界中のほとんどの国が乗り入れを拒否する高麗航空を利用するとの情報もある。これも文政権は例外措置として認めるとみられる。

 韓国の有力日刊紙「朝鮮日報」は7日付社説で「文政権は例外を乱発して対北朝鮮制裁の原則を取り崩し、効果が表れ始めた制裁を前面にたって揺さぶっている」と批判した。平昌五輪の開幕式に出席するため代表団を率いて訪韓するアメリカのペンス副大統領は「五輪メッセージが北朝鮮にハイジャック(拉致)されようとしている」「韓国と北朝鮮がオリンピックで如何(いか)なる協力をしようとも国際社会で孤立させなければならない北朝鮮という国家の本質を隠すことはできない」(2月5日、アラスカにて)と南北の不透明な関係に懸念を示す。

 ところが、韓国の与党、共に民主党議員の一人はペンス副大統領の訪韓を「めでたい家に、哭(こく)しにくるんだ」とアメリカを批判、安倍総理の五輪出席を「他人の宴に出て勝手に踊る(『グッ』と呼ばれる韓国シャーマニズム儀式をする)つもりだ」と批判する。

 文大統領の対北朝鮮政策の助言役で左派陣営の重鎮である統一部元長官の丁世鉉(チョン・セヨン)は、「北朝鮮が憲法上の国家首脳である金永南を平昌五輪に送るのには対話へのメッセージが盛り込まれている」と語り、南北首脳会談の話を持ち込むだろうと歓迎する姿勢だ。北朝鮮も韓国も勘違いしているとしか思えない。平昌五輪は南北の祭りではなく、地球人の祭りのはずだ。(文中、一部敬称略)


この記事の関連テーマ

タグ

「政治一色」平昌五輪は失敗だった

このテーマを見る