「平易な難問」こそ入試を分析するうえでのキーワードです。そこで、もう少し具体的に説明を加えるため、多くの人が挫折してしまう高校数学ではなく、女優の芦田愛菜さんが合格したことでも話題になった慶応義塾中等部の入試問題を題材とし、平易な難問を解説したいと思います。
2017年2月3日実施、慶応義塾中等部【7】をもとに筆者作成
2017年2月3日実施、慶応義塾中等部【7】をもとに筆者作成
 この問題は、足し算と掛け算の筆算さえ理解していれば解けるので、内容そのものは平易です。しかし、いざ解こうとすると厄介な問題であることに気づきます。また、この2問に使える時間はせいぜい10分しかありませんが、じっくり考えれば解けるはずの大人でも、この2問を10分以内に解くのは容易ではありません。内容そのものは平易であるにもかかわらず、小細工と制限時間が加わることで「平易な難問」に変わってしまうわけです。

 (1)の問題について、簡単に解法を紹介します。最も小さいABCDを求める問題なので、まずはAに1を入れてみます。Aに1が入れば、Bは2と考えるのが自然です。同じようにCには4、Dには8が入りそうです。しかし、Dに8が入るとおかしなことが起きます。一の位で繰り上がりが発生するため、十の位の答えは8ではなく9になってしまい、うまくいきません。そこで、試しにDを9として計算してみます。すると、先ほどの繰り上がりの問題もうまくクリアできることが分かります。正解は1249です。

 Dに9を入れるという作業は、一見豊かな発想力が要求されているように思えます。しかし、繰り上がりのせいで、Dに当てはまる数字はひとつに限らないというコツさえ知っていれば、それほどてこずることなく解答できるでしょう。頻出問題をすべて解けるよう繰り返し練習したうえで、解くためのテクニックやコツを理解し、使いこなせるレベルに到達することで、「平易な難問」を攻略できるわけです。

 大学入試も基本的に平易な難問です。特に学力上位の受験生は、高校で習う内容を簡単に理解してしまうため、普通に出題すると平均点が非常に高くなってしまいます。その結果、受験生の間で点数の差がつかず、適切な選抜ができません。だから、素直な問題ではなく、慶応義塾中等部の問題のように小細工を加え、適切な平均点となるよう難度を調整しなくてはなりません。

 こうして、内容そのものは初歩的な確率や微分積分といった平易なレベルなのに、受験専用のトレーニングをしないと数学の専門家でさえ解答困難という摩訶(まか)不思議な問題ができあがるわけです。今年のセンター試験で話題になったムーミンの問題のように、あの手この手で小細工を加えなければならない事情が浮かび上がってきます。