羽生の4回転ジャンプはどこが優れているのだろうか。

 4回転を成功させるには、ジャンプの高さが欠かせない。滞空時間を確保するためだ。

 もう一つ重要なのは回転速度だ。滞空時間が短くても、回転速度が速くなれば4回転の成功率は高まる。それには、踏み切る前に助走速度を一定以上に高める必要がある。4回転成功の目安は、0.63~0.67秒の滞空時間で、毎秒5.7~6回ほど回転速度が必要だ。

 羽生の助走速度に比べ、宇野はそれを上回る。筋肉も含め強靭な身体能力を持っているのが強みだ。ただ、実際のジャンプの見栄えは回転速度だけでなく、体の柔軟性、身のこなし、筋力のバランス、腕などの使い方などが関係する。助走速度だけで決まらないところが難しいところであり、面白いところである。

 羽生のフリーの演技の特徴は、ジャンプ時の姿勢の良さ、完成度だけでなく、ジャンプ前後の演技の流れにある。助走速度をあげるため、加速に当てる時間を短くし、演技が止まらない。それが出来栄え点(GOE)の高さに現れる。

 図8を見て欲しい。
図8 羽生が高得点を挙げた2015年のGPファイナルと2017年の世界選手権の時のフリー技術点とGOE
図8 羽生が高得点を挙げた2015年のGPファイナルと2017年の世界選手権の時のフリー技術点とGOE
 300点超えなど高得点時の羽生のGOEの高さは突出する。GPファイナル、世界選手権フリーの13演技で、GOEの合計はそれぞれ25.73、22.96。各演技のGOEは最高3点なので、平均1.98、1.77となる。この数字は他の追随を許さない。
図9 2017年のグランプリファイナルにおける宇野とチェンの技術点とGOE
図9 2017年のグランプリファイナルにおける宇野とチェンの技術点とGOE
 昨年のGPファイナルにおけるチェンと宇野のGOE(図9)と比較してみるとその差、すごさは歴然としている。宇野は平均0.27、チェンは0.22しか加点されていない。4回転ジャンプはするものの完成度は低く、さらには演技が流れないということを意味する。
 その辺の事情は、1月に出版された『羽生結弦は助走をしない』(高山真著、集英社新書)に詳しく記されている。フィギュアスケートに対する思い入れが深い著者の洞察は鋭く、優れており、そこには羽生の滑りについて、「(ジャンプなどから次の演技に移る)トランジションの密度の濃さ」「足さばきのほとんどすべてを音楽にからめていく見事さ」「助走をしないほど濃密な演技」と評している。羽生は、4回転だけでなく、その前後の演技を考えていることが窺える。