この演技の完成度の高さから五輪本番では、無理して、難度(基礎点)の高い4回転を飛ぶ必要もないという声が上がるのも自然だ。ケガにつながったルッツより、基礎点は低いもの完成度の高いサルコー、ループ、トウループでまとめた方がいいというものである。羽生はサルコー、ループ、トウループは完成度も高く「武器になる」と語っている。ただ、平昌五輪では4回転を4回ほど飛ばなくては優勝できないとも言われている。もちろん4回転を減らし、3回転、コンビネーションの完成度をあげて,着実にGOEを獲得するという戦略はある。ただ、それを羽生が許すか、GOE重視の演技に切り替えるかは、けがの癒え具合とそれで遅れた可能性のある練習不足の度合いにかかっているだろう。

 羽生のけがは懸念材料であるが、それをはねのけるほど練習、準備、スケートにかける思い入れ、メンタルはかなり強くなった。

 ソチ五輪の後に、羽生の金メダルの裏にスタミナをつけるための食事について解説した。この4年間、食事以外にも体幹を鍛え、けがをしにくい体作りに取り組み、モチベーションの維持などにも苦労はあっただろう。勝って当り前、負け続ければ「終わり」という烙印を捺される、五輪金メダリストという重圧と向き合ってきた。逃げることなく果敢に練習し、さらに準備を続けてきた。

平昌五輪フィギュアスケート男子SPの羽生結弦(4回転トーループ)=2018年2月16日、韓国・江陵アイスアリーナ(納冨康撮影)
平昌五輪フィギュアスケート男子SPの羽生結弦
(4回転トーループ)=2018年2月16日、
韓国・江陵アイスアリーナ(納冨康撮影)
 その一端が、ソチ五輪金メダル獲得をサポートした城田憲子さんの近著『日本フィギュアスケート 金メダルへの挑戦』(新潮社)に書かれている。

 同書によれば、城田さんは、ソチ五輪後、羽生の4年間の重圧と、身体にかかる負荷の大きさを考え、躊躇することなく「一年間の休養」を提案したという。多種類の4回転ジャンプ時代の突入を考慮してのことだった。

 これに対し羽生は「でも、休んだら駄目なんですよ、城田さん」と答えたという。プレッシャーと向き合う覚悟を感じたという。

 ルッツの練習で右足首の靭帯を損傷したのは、名伯楽のブライアン・オーサーコーチの「4回転の種類を増やす必要はない」という反対を押し切ってのことだった。先ほども触れたが、ルッツなしのトウループ、サルコー、ループで十分な得点は十分に稼げるからだ。コーチの指導を振り切ってルッツに挑戦したのも「さらなる高みを目指す、自分への挑戦でもあった」からだ。