布施努(スポーツ心理学博士)

 これまで多くのスポーツ選手に注目し、分析してきましたが、平昌五輪のフィギュアスケート男子ショートプログラムで、自己ベストに迫る111・68をたたき出した羽生結弦はメンタルの強さが飛び抜けているアスリートの一人といえます。

 そもそも一流スポーツ選手には「獲得型」と「防御型」という二つのタイプがあります。どうやれば勝てるかを考えるのが獲得型で、ミスしないようにするにはどうすればよいかを考えるのが防御型です。羽生はどちらといえば獲得型でしょう。

 体操の内村航平も羽生と同じ獲得型でメンタルは強いのですが、以前に失敗したときは、中国の選手の技術が向上していることを目の当たりにしたために、精神的に追い込まれ、自身の技の完成度を上げられなくなり、防御型になってしまったとみられています。

 要は周囲に影響されず、自分が勝つためにできること冷静に判断してそれを実行できるかなんです。同じく体操の白井健三もテレビ番組の中で、いわゆる防御型になっていたときに、内村からのアドバイスでもう一度「美しい体操をしよう」という前向きな意識になり、さらによい体操ができるようになったと言っていましたが、これこそ防御型から獲得型に変わった瞬間なんですね。

 羽生もおそらく、当初は4回転ループをしようとしていたが、それをショートプログラムで4回転サルコーにしたのは、まさに自信のけがや調子を考えて、どうやったら勝てるかを重視する獲得型を実践した表れだと思います。
フィギュアスケート男子SPで演技する羽生結弦=2018年2月、江陵アイスアリーナ
フィギュアスケート男子SPで演技する羽生結弦=2018年2月、江陵アイスアリーナ
 実際、試合後のインタビューで「4回転サルコーにするのはいつ決めたのか」との問いに対して「ここに来る前にサルコーでずっと練習していた。調整が間に合わない部分もあったと思いますが、実際に点数には満足しているので、サルコーにして良かったと思っている」と言っていました。試合直前の体調などに合わせてできることをやりに行くことが勝つために大切なんです。

 スポーツ選手にけがは付きものです。その時に置かれた状況でできないことをやろうとすると選手は精神的に「不安ゾーン」に陥るんです。ただ、そんな状態でも試合で勝てる選手というのは自分への課題を意図的に下げることができる。それを羽生は試合直前、もしくは試合中にやることができる能力を備えているからこそ、大舞台で結果がだせるのでしょう。自分のスキルが下がってきたときに、焦りではなく、「自己コントロール」できる能力が抜群に高いといえます。