また、インフレ目標には政策を行う側の「責任」が生じるためか、日本銀行も政治家もあえて採用するよりも、できるだけ避けた。むしろ、インフレ目標政策など危険だと、回避を「後押し」するような姿勢をみせていたのである。このような態度は、村中氏が指摘する現在の厚生労働省の「存在しない薬害に実体を与え続ける姿勢」と極めて類似している。

 仮に、この対比が正しいのであるならば、問題が深刻なように思える。われわれが主張する経済政策も海外の中央銀行が軒並み採用しても、時の日本銀行首脳はインフレ目標の採用を最後まで拒否した。最終的には、安倍晋三政権になってインフレ目標が採用されて現在の経済「回復」が実現されている。しかし安倍首相と数人ほどしかこのインフレ目標政策を支持する政治家が未だにいないのだ。

2010年5月、子宮頸がんワクチンの集団接種を受ける小6女児
=栃木県内の小学校(代表撮影)
 政治家と厚労省の子宮頸がんワクチンについての不作為=「リスク回避」の壁も予想以上に高い可能性がある。ただし、メディアの意見は潮目をみて変化することがあるし、すべてのメディアが「敵」でもないだろう。ただし「官僚的なるもの」は体質を全く異にしており、政策責任を極力避ける仕組みなのだ。この壁を破るにはどうしたらいいだろうか。

 われわれはそのために政治家たちに積極的に接近した。それは長くとても長く、多くは無意味に思える行動の積み重ねだった。政策に反対する人たちは同意できないだろうが、安倍首相がインフレ目標政策を中核とするデフレ脱却政策を採用したことは実に運がよかった。だがその背景には、根気強い政治への運動があったのである。

 子宮頸がんワクチンの積極勧奨や接種率の向上も、やはり政治が動かないとどうしようもない。もちろんマスコミが積極的な勧奨キャンペーンに転じれば、状況はかなり変わるかもしれない。ただし、日本のマスコミも「リスク回避」=間違いを正さない風土が強い。こうした事象にマスコミが結果的に加担したのであれば、それを大胆に転換することは、日本のマスコミの官僚的風土では極めて困難である。

 もっとも、これはかなり悲観的な見方かもしれない。村中氏の『10万個の子宮』を多くの人が読み、本書がたくさんの読者を獲得することで国民の声が高くなれば、政治も官僚もメディアも動かざるをえないかもしれない。その意味でも、ぜひ多くの人に読んでほしい書籍である。