三木谷氏はハーバード大学に対してかなりの思い入れがあるようだ。楽天の前身であり、現在は三木谷氏の資産管理を行っているクリムゾングループという会社があるが、クリムゾンは深い赤色のことであり、この色はハーバード大学のシンボルカラーとなっている。起業の原点となった会社に三木谷氏はハーバード大学にちなんだ名前を冠している。

 楽天がオーナーになっている楽天イーグルスやヴィッセル神戸のイメージカラーもクリムゾンだし、二子玉川にある楽天の新本社の名称もクリムゾンハウスである。新社屋の床にはあちこちに赤色の絨毯(じゅうたん)が使われているほか、16階にある巨大なレクチャーホールはハーバード大学経営大学院の教室を再現したものだという。

 三木谷氏がハーバード時代の体験を何度もメディアに語っていることなどを考え合わせると、ハーバード留学時代が起業家としての三木谷氏を形成したとみてよいだろう。

 では、こうした三木谷氏の人物像は楽天の経営にどのような影響を与えているのだろうか。三木谷氏は楽天の経営を軌道に乗せた後、新世代経営者の代表として、規制緩和や自由競争の徹底を政府に訴えかけてきた。
2016年通期連結決算を発表する楽天の三木谷浩史会長兼社長=2017年2月、東京都世田谷区
2016年通期連結決算を発表する楽天の三木谷浩史会長兼社長=2017年2月、東京都世田谷区
 三木谷氏はトヨタ自動車元会長の奥田碩氏に誘われる形で経団連に入ったものの、保守的な体質に嫌気が差し2011年に経団連を脱退。2012年には「eビジネス推進連合会」を母体とする新しい経済団体「新経連」を立ち上げ、薬のネット販売やネット選挙の実現などを訴えてきた。

 一連の動きを見ると、自由でフェアな競争を強く望む実業家というイメージが強い。ビジネス・スクールで学ぶ経営論は基本的には自由市場をベースにした合理主義的なものである。その点において、三木谷氏は非常に優秀なMBAホルダーといってよいだろう。

 楽天の経営も同じである。楽天は上場で豊富なキャッシュを得たが、日本の従来型企業のようにキャッシュを貯め込むことはせず、果敢に海外企業のM&A(合併・買収)を行ってきた。今回の携帯電話参入についても6000億円の資金調達を見込んでおり、楽天の有利子負債は大きく増えることになる。
 
 だがMBA流の合理的な経営論においては、過剰なキャッシュの保有は是とされない。財務体質の悪化を上回る成長が見込めるのであれば、負債の増大を厭(いと)わず決断する必要がある。三木谷氏はまさにこうした経営を実行しているわけだ。

 一般的に起業家も自由でフェアな競争を求めるものだが、それは起業家だけに見られる特徴ではない。起業家にもっとも特徴的なのは、イノベーションを活用して社会の問題を合理的に解決しようという頑(かたく)なまでの姿勢である。

 アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏やグーグル創業者のラリー・ペイジ氏などが代表例だが、テクノロジーをベースにした革新的な製品やサービスを投入し、市場のルールを自ら変えていこうとする。あまりにも先鋭的なので、彼らはたびたび世間から批判されるが、たいていの場合、こうした批判にはほとんど耳を貸さない。世界に先駆けて採寸スーツの無料配布に踏み切ったZOZOTOWN創業者の前澤友作氏などはこのタイプの起業家である。