だが、三木谷氏からはこうした雰囲気はほとんど感じられない。

 実際、楽天とアマゾンは、同じEC(電子商取引)サイトでありながら、その性質はまったく違ったものになりつつある。アマゾンは徹底したAI化で最先端を行く「尖った」サービスを目指しているが、楽天は高齢者の利用も多く、基本的な機能もほとんど変わっていない。

 ホリエモンこと堀江貴文氏はこうした三木谷氏の姿勢について「ネット通販ビジネスに興味がなくなっているのかも」と突き放したような発言をしている。堀江氏は三木谷氏について「いつも思うけど、三木谷さんて遅れてるよね」と辛辣(しんらつ)なコメントも残している。
堀江貴文氏
堀江貴文氏
 堀江氏の発言は適切とはいえないかもしれないが、核心を突いているのも事実である。三木谷氏は、挑発的なテクノロジーで社会を変えるという強い意思はおそらく持ち合わせていない。この部分において三木谷氏から感じ取ることができるのは銀行マンとしての手堅さである。

 今回の携帯電話参入は、楽天にとって大きな賭けとなる決断だが、楽天にはアマゾンに対抗すべくAI開発に数千億円を投じるという選択肢もあったはずだ。こうした重大局面における投資が、テクノロジーに対してではなく、財務テクニックを駆使した上での、従来型事業への投資だったという点は興味深い。

 三木谷氏には三つの顔があると述べたが、もっとも大きいのはMBA流の合理主義的な経営者としての顔、続いて数字を駆使できる堅実なエリート銀行マンとしての顔、最後に来るのがイノベーションで社会を変えるという起業家としての顔ということになる。そして三つ目の顔は三木谷氏からは消滅しつつある。

 楽天は今回の決断によって、よい意味でも悪い意味でも、ベンチャー企業ではなくなったといえるかもしれない。驚異的な成長率やイノベーションを期待する人には残念な結果かもしれないが、現在の楽天の経営方針と三木谷氏本来のキャラクターはよくマッチしているはずだ。