嶋聡(多摩大学客員教授)

 2011年6月28日。東京ドームで東北楽天イーグルス対福岡ソフトバンクホークスの「IT決戦」が行われた。三木谷浩史、孫正義の両オーナーが、そろって応援に駆けつけることが話題の試合だった。

 「同じ実力の選手なら『イケメン』を取る。それが球団経営のコツだよね」
 孫氏がVIPルームにあいさつに訪れた三木谷氏に豪放磊落(ごうほうらいらく)に話しかけた。聡明才弁(そうめいさいべん)の誉れ高い三木谷氏は軽く笑って応じただけであった。

 三木谷氏は、楽天創業前の日本興業銀行(現みずほ銀行)時代、上場したばかりのソフトバンクのアドバイザーだった。1993年、ハーバード大学でMBAを取得後、帰国して大型のM&A(企業の合併・買収)などをアドバイスする本店企業金融開発部に配属されたのだ。

 当時の孫氏は、94年7月に店頭登録を果たすとすぐに、米ジフ・デイビス社の展示会部門「インターロップ」、米インターフェースグループ社の展示会部門「コムデックス」、ジフ・デイビス社の出版部門と、大型M&Aを立て続けに行い、今も変わらぬM&Aによる飛躍の経営戦略で、事業を拡大させている真っただ中であった。その孫氏の戦略ブレーンとして、一連のプロジェクトを支えたのが三木谷氏だった。「当時は私のことを(孫氏)は『先生』と呼んでいましたね」と親しい記者に語ったこともある。

 「楽天の嶋基宏捕手の実家は岐阜県で、実は私の実家の隣なんですよ」。当時、社長室長として孫氏を支えていた私が場をとりなすように三木谷氏に話しかけた。嶋捕手の祖母と私の母が親しい仲だったこともあり、嶋捕手は幼いころ、背負われて私の実家によく来ていた。母は嶋捕手のことを「モックン」と呼んでいた。三木谷氏もさすがに驚いたようで「そうなのですか」と答えた。

試合を観戦する楽天・三木谷浩史オーナー
=2011年6月28日、東京ドーム(撮影、斎藤浩一)
楽天対ソフトバンクの試合を観戦する楽天・三木谷浩史オーナー
=2011年6月28日、東京ドーム(撮影、斎藤浩一)
 2011年3月11日、東日本大震災が襲った。4月2日、復興慈善試合で楽天イーグルスの会長だった嶋捕手は「見せましょう、野球の底力を」と復興へのエールを送った。

 東京電力福島第一原発も大きな被害に遭い、日本のエネルギー政策をめぐり国論は二分した。6月23日、三木谷氏率いる楽天は、日本経団連に脱退届を提出した。三木谷氏はツイッターに「そろそろ経団連を脱退しようかと思いますが、皆さんどう思いますか?」と書き込み、その理由を問う読者に対して「電力業界を保護しようとする態度がゆるせない」とツイートしたのである。

 この経緯を知っていた孫氏が「経団連、私たちは中で暴れますから」と言った。三木谷氏は「本来は逆のような気がします」と応じ、部屋を出て行った。