ハーバード大学でMBAを取得し、孫氏に「先生」と呼ばせた三木谷氏はまさに「聡明才弁(そうめいさいべん)」の魅力である。すばらしい経営者であるが、聡明才弁のもつ弱点も持ってしまっている。その弱点の第一は自信がありすぎて、周囲の諫言を聞かないことである。希代の経営者、孫氏の戦略アドバイザーだったと自負している人間が素直に人の意見を聞くのは難しいだろう。

 「貞観政要」には「主もし自ら賢とせば、臣は矯正せず。危敗せざらんと欲すれども、あに得べけんや」とある。もし、君主がさも賢明であるように振舞えば、臣下は誰も諌めようとしなくなる。そうなると国を滅亡させたくないと思っても不可能だという意味である。

新経済連盟関西支部発足記念パーティーであいさつをする
三木谷浩史氏=2017年2月10日、大阪市北区
新経済連盟関西支部発足記念パーティーであいさつをする 三木谷浩史氏=2017年2月10日、大阪市北区
 12月18日、三木谷氏はツイッターで、携帯電話事業参入について「カード事業参入の時も、いろいろと言われたが、10年がたち、取扱高、利益水準も業界トップ(クラス)になった。MVNO(仮想移動体通信事業者)の好調さ、9000万人を超える会員ベースを考えても、参入は自然な流れだと思う。もし認められれば、より快適で安価なサービスが提供できるように頑張ります」と述べた。

 カード事業参入の時も、先見性のない人々はいろいろ言った。今回も同じことだ。「だから心配するな」ということであろう。

 スタンフォード大学の教授、ジェームズ・C・コリンズは「ビジョナリー・カンパニー」をビジョンを持った企業、未来志向の企業とした。さらに、時代を超え、際立った存在であり続ける企業もその条件とし、GE、IBM、ウォルトディズニーなどをあげた。日本ではソニーだけが取り上げられている。

 三木谷氏、孫氏ともビジョンを持ち、未来志向であることは疑いない。ただ、永続性ということで、コリンズはビジョナリー・カンパニーの定義を1950年以前に設立された企業としたので、楽天もソフトバンクも入っていない。だが、時がたてば、世界を代表するビジョナリー・カンパニーとなる候補だと思う。

 コリンズは、経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中でスタートしながら、飛躍的に成長した企業を「10X(十倍)型企業」とした。ソフトバンクは2006年の携帯電話事業参入の時は売上高1・1兆円、現在は約90兆円と10X型企業に近い。

 10X型成功のカギは「銃撃に続いて大砲発射手法」だとコリンズは言うが、孫正義の経営手法はまさにこれである。10X型企業は標的に命中しない銃弾を大量に撃つ。どの銃弾があたり、成功するか分からないからだ。最初の銃弾は30度外れた。次は10度。3弾目で命中すると大砲の出番となる。

 孫氏は、情報革命を起こそうとまず2001年、ADSL(非対称デジタル加入者線)事業を始めた。次に2004年、固定電話の日本テレコムを3400億円で買収する。企業買収は銃撃と考えればよい。だが、これだけではライフスタイルを変え、戦略目標である情報革命を引き起こさなかった。

 そして2006年、モバイルインターネット、スマホ革命を引き起こす携帯電話事業に参入し、ボーダフォンを買収。買収額1・75兆円。だんだん、焦点を絞った後の「大砲発射」であった。この頃、孫氏はよく「ADSL、日本テレコム買収とずいぶん高い授業料を払って、ずいぶん勉強した」とぼやいていた。孫氏は携帯電話事業を日本国内では既に「成熟産業」と考え、ソフトバンク10兆円ファンドに軸足を移そうとしているように見えた。M&Aによる銃撃開始である。これから徐々にIoT(モノのインターネット)時代のメーン事業に絞ってゆくであろう。