三木谷氏も多くのM&Aをして「銃撃」をしている。だが、あまりに多岐にわたっており、徐々に焦点を絞って携帯電話事業になったとは思いにくい。

 孫氏のADSL、固定電話、携帯電話事業参入には「自然な流れ」があった。だが、三木谷氏の言う「カード事業の成功」と携帯電話事業参入に「自然流れ」があるとは思えない。

 コリンズは、一時期成功した企業は「衰退の5段階」を経て転落してゆくという。

 5段階とは①成功から生まれる傲慢(ごうまん)があり、②規律なき拡大路線をとってゆく。社内では③リスクと問題の否認の議論が多くなる。また、トップの決めたことに誰も異を唱えなくなる。その後、焦りからか④一発逆転の追及を経て、⑤凡庸な企業への転落してしまうという。

 第4段階では「ゲームを変える」買収、新戦略への一貫性のない飛躍、劇的で大きな動きによってすばやく突破口を開こうとする傾向が出てくるという。三木谷氏の携帯電話事業参入は衰退の第4段階の動きのように見える。

 楽天はamazonに脅かされている。その焦りからからか多くの買収や新規事業を始めている。これが「ゲームを変えようとする買収」であり、「新戦略への一貫性のない飛躍」を求める傾向に似ている。今回の携帯電話事業参入は、キャッシュフローの獲得と「楽天経済圏」を構築するためとのことだが、私には第4段階の「一発逆転策の追求」のように思える。

 ソフトバンクが携帯電話事業に参入し、成長戦略の一翼を担ったということで「孫正義の参謀」と言われるようになった私が、三木谷社長の参謀だったらどうするか考えてみた。まちがいなく、「第4の携帯電話事業参入」はやめたほうがいいと諫言すると思う。「撤退」の決断はトップしかできないからだ。

 携帯電話事業の本質は電力や鉄道と同じ、基地局というネットワークを膨大な投資と時間かけてつくるというインフラ事業である。今回の楽天も6000億円以上の投資がかかるという。だから、孫氏はイチからケータイ事業を始めず、「時間を買う」ためにリスクはあったが、ボーダフォンを買収した。楽天はイチから始めるようだが、それは危うい選択である。

 携帯電話事業は「エブリシング・イズ・スケール」であり、規模がすべてである。私は「携帯電話事業は日本に3社しか残らない。だから、ボーダフォンを買えるなら買ったほうがいい」と進言した。これが諸葛孔明の「天下三分の計」にならって「ケータイ三分の計」などと言われた。

対談する楽天社長、三木谷浩史とソフトバンク社長、孫正義氏 =2010年4月23日、東京都港区
対談する楽天の三木谷浩史社長(右)とソフトバンクの孫正義社長=2010年4月23日、東京都港区
 ソフトバンクは4番目の事業者でなく、「3番目に取って代わった」のである。ニュースでは、楽天が「4番目の携帯事業者になる」と言われている。だが、日本で4番目の携帯事業者が残る確率は極めて低いと考えたほうがいい。

 今、三木谷氏に必要なことは「クールヘッド」になることではないだろうか。「一発逆転策」は成功の確率が低いことは、ハーバード大学でMBAを取得した三木谷氏なら、よくご存じのことと思う。 

 だが、私がソフトバンク社長室長時代、孫氏は三木谷氏が携帯電話事業に参入してきたら、誰よりも手ごわいと思っていたように思う。その三木谷氏が携帯電話事業に参入の決断をしたのだから、私など思いもつかない戦略を持っておられるのだろうし、それを期待する。

 三木谷氏の楽天、孫氏のソフトバンクの二つとも、世界の企業家から尊敬されるビジョナリー・カンパニーになることを願うものである。