常見陽平(千葉商科大学国際教養学部専任講師)

 春だ。春闘の季節だ。筆者は労働組合の勉強会で講演する日々が続いている。それだけでなく、経済団体からも講演依頼が増えている。皆、「働き方改革」の根本的・普遍的矛盾に気づき始めたからだ。

 「働き方改革」については、厚生労働省が裁量労働制について検討した際のデータが不適切だった件が、国会で問題となっている。当初、2月中の予定だった法案提出も3月にずれ込むことが濃厚だ。

 法案は長時間労働是正や、同一労働同一賃金、裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度などが抱き合わせになっている。包括的な対策だとしつつも、労使にそれぞれ「あめ玉」をしゃぶらせつつ、反対する項目を飲ませようという意図が感じられる。

 しかし、「策士、策に溺れる」とはまさにこのことだ。一本化したがゆえに、与党は窮地に立たされている。
2018年2月、厚生労働省のデータをめぐり希望の党の山井和則氏(左)に追及される加藤勝信厚労相(斎藤良雄撮影)
2018年2月、厚生労働省のデータをめぐり希望の党の山井和則氏(左)に追及される加藤勝信厚労相(斎藤良雄撮影)
 これに限らず、「働き方改革」なる俗耳に馴染(なじ)むスローガンの正体が完膚なきまでに暴き出されようとしている。例えば、日本能率協会『第8回「ビジネスパーソン1000人調査」【働き方改革編】』では、約8割のビジネスパーソンが職場での「働き方改革」を実感していないということが明らかになった。

 また、あしぎん総合研究所の『働き方改革に関する意識調査』によると、『働き方改革」の企業側の認知度は96・3%であるのに対し、就労者側の認知度は41・3%にすぎないことや、実際に取り組んでいる企業は57・3%となっていることが明らかになった。

 「働き方改革国会」と言われる今国会だが、皮肉にもここ数年の「働き方改革」の矛盾がこの時期になって、明らかになっているのだ。この取り組みについての違和感を、労使の立場を超えて今、発信するべきではないか。

 国会の論戦にも注目が集まるが、問題は「現場」で起こっているからだ。「働き方改革」が現場丸投げになる中、今そこにある問題が「時短ハラスメント(ジタハラ)」である。これは具体的な対策や配慮がないにも関わらず、現場丸投げで「残業するな」と圧力をかけるものである。

 2016年12月には自動車販売会社の男性店長が過労自殺するという事件が起こった。のちに労災認定された。会社側から仕事を早く終わらせろと迫られる一方で、従業員は早く帰せといわれた末の事件だった。

 ここには「働き方改革」の矛盾が凝縮されている。「働き方改革」の号令がかかる中、現場に丸投げされる。しかも、目標やミッションを変更させられるわけでもない。要するに、今までよりも速く走れと言っているようなもので、労働強化でしかない。400メートル走の選手に、100メートル走と同じペースで走れと言っているようなものである。