田岡春幸(労働問題コンサルタント)

 今国会で、働き方改革関連法案(改正労働基準法ほか)が議論されている。早ければ、今国会で成立し、2019、20年には施行される見通しとなっている。

 これまで、日本の「病巣」とされてきた長時間労働は、結果として「KAROSHI」(過労死)という言葉に凝縮され、働き方改革は、いかに労働時間を短縮していくかということを主眼としている。これは、労働者の健康管理という側面から必要なことであることは間違いない。

 ただ、働き方改革により、政府の試算では、年間4~5兆円の残業代が削減されるとしている。企業にとっては内部留保が増えるかもしれないが、景気や消費に与える影響は大きい。なぜなら、労働者には実質の賃下げともなり、消費が冷え込む可能性もあるからだ。大体消費税1%分に相当するとみられ、このことを踏まえて、安倍晋三首相は、今春闘に向けて3%の賃上げを企業に要請しているのではないかと考える。

 そもそも、長時間労働は、本当に悪で、労働時間減(短縮)が善なのだろうか。確かに働いた分の賃金がしっかり支払われないことは、あってはならない。サービス残業は根絶させなければいけない。本来は、ここをしっかり是正していく必要がある。特に長時間労働でも生産性が向上しない場合は論外である。ダラダラと残業代が欲しいがための残業は絶対に認めるべきではない。

 しかし、業界によっては、技術向上のためにどうしても習得しなければならない技術がある。この練習時間まで削り労働時間を削減しろというのは労働者のキャリアアップの側面からも問題ではなかろうか。技術力が落ちれば、当然その企業の利益が減少する。日本経済の停滞にも繋がってくる問題である。
(iStock)
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 むしろ企業側が技術練習料を払ってもいいくらいである。働いただけ将来の身になってくるからだ。このままでは、かつての「ゆとり教育」と同じ失敗をする可能性が高い。なれの果ては、技術大国日本の看板を下ろさなければいけなくなる。

 そもそも、働き方改革で業務見直しを行わず、残業時間削減だけを行えば仕事が定時に終わらない可能性がある。それでも労働時間削減をお題目として、定時に帰らされる現象が起こる。これを今、「時短ハラスメント」と呼び、多くの企業で蔓延(まんえん)しているようだ。

 時短ハラスメントとは、職場において業務時間の短縮を強要し、何があろうと仕事を「時間内に終わらせろ」「残業はするな」と強要するハラスメントである。組織全体のことを考えないと起こりうる現象である。

 たちが悪いことに、労働時間を短くすることを強制されながら、業務量は減らない。業務時間中に無理をするか、残業代が払われないことを覚悟しながら持ち帰って作業するしかなく、結果として労働者の不利益になる。労働者はどこかで無理をしなければいけなくなる。

 時短ハラスメントは、結果的にサービス残業を強いることになり、一見では分からないが、本来健全であった企業を「ブラック企業」に変えてしまう恐れがあるのだ。では、なぜこのようなことが起こってしまうのだろうか。