黒葛原歩(弁護士)

 最近、「時短ハラスメント」(ジタハラ)という言葉がよく聞かれるようになった。見た目上、従業員の労働時間を短縮していると見せかけるために、仕事の総量を減らさないまま、定時になったら会社から追い出すというような経営者・上司の行動のことを指すようだ。

 時短ハラスメントが起こっている現場では、「従業員が会社で行う仕事の時間」が減るだけで、仕事そのものは減っていないので、従業員が持ち帰り残業を強いられたり、中間管理職にしわ寄せが行くなどの弊害が生じる。そもそも時短は、従業員の生活時間を確保したり、健康を維持・増進するために行うものなのに、これでは何のための時短なのか分からない。

 形だけの時短を実現しようとして中間管理職に過大な負担がかかった末に、過労自殺という悲惨な結果が生じた事件があった。それが、当職が伊藤大三朗弁護士とともに受任し闘ったホンダカーズ千葉事件である。

 この事件では、ホンダカーズ千葉(ホンダ系列の販売会社)の元店長が、部下の残業時間を減らすため、自らが部下の分の仕事を引き取り、持ち帰り残業等も行うなど、極めて長時間の労働を強いられていた。結果、元店長は精神疾患を発症し、最終的に自殺に至った。千葉労働基準監督署は元店長の自殺は過大な仕事が原因であったことを認め、元店長の自殺を労災と認定した。遺族による民事訴訟では和解が成立し、会社側は元店長の自殺の原因が過大な業務による心理的および身体的負荷を受けたことにあったということを認めた。
ホンダの子会社ホンダカーズ千葉の販売店店長だった男性が長時間残業を強いられたことなどで鬱病になり自殺したとして、遺族が損害賠償などを求めた裁判。千葉地裁で和解が成立し、会見する男性の遺族側代理人弁護士 =2018年1月17日、千葉県庁(永田岳彦撮影)
訴訟の和解成立を受け、会見する男性の遺族側代理人弁護士=2018年1月17日、千葉県庁(永田岳彦撮影)
 事件は広く報道され、多くの方々がSNS等で、この元店長の置かれた境遇に対し同情的な声を寄せてくださった。その中でも、次のような声が非常に多かった。

「うちの現場でも、全く同じことが起きている」

 時短を実現しようとして、かえって一部の人に過剰な負担をかけ、揚げ句、過労死に至らしめる。このような悲劇は、2度と繰り返されてはならない。