デフレは、物価が持続的に低下する経済の病であり、物価の下落は裏返せば通貨価値の上昇だ。つまりデフレは人々や企業が円という通貨を偏愛、抱え込んでしまう現象といえ、マネーは消費や設備投資に回らず、日本経済に負のスパイラルをもたらした。デフレを脱却するためには、物価が下がり続けるという人々の「物価観」を転換、緩やかなインフレに向かうという「期待」を生み出し、マネーを消費に回さなければならない。

 つまり「黒田バズーカ」は、円の供給量を激増することで通貨としての価値を破壊し、デフレによって失ったモノやサービスを求める欲望を呼び覚ますことを目指したと考えられる。黒田総裁は、そのために「サプライズ」で人々を驚かせ、市場を揺さぶることが有効だと考えたのだろう。

 ただ、これは米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など米欧の中央銀行の説明方法とは大きく異なっている。FRBやECBは政策変更の可能性を徐々に示唆し、市場に浸透させながら、円滑に金融政策の変更を実施している。
 
 黒田バズーカは、円安、株高、失業率の低下の実現に一定の効果をもたらした。ただ、最大の目標である年2%の物価上昇は達成できておらず、デフレ脱却はいまだに実現できていない。

 一方でFEDが量的緩和の縮小、利上げに着手するなど、米欧は金融の引き締めに向かっている。景気回復やカネ余りを背景に米欧が金融の引き締めに向かう中、デフレ脱却の途上である日銀がどのような政策運営をするのか、日銀は極めて難しい政策運営を迫られる。
記者団の質問に答える日銀の黒田東彦総裁=2018年1月25日、スイス・ダボス(共同)
記者団の質問に答える日銀の黒田東彦総裁=2018年1月25日、スイス・ダボス(共同)
 特に安倍政権との関係はデリケートだ。景気を刺激する金融緩和は、政治と協調しやすい。しかし、景気の過熱を抑えるための金融引き締めは景気減速につながりかねず、政治との摩擦を生みやすい。アベノミクスの象徴として続投する黒田総裁にとって、引き締めへの政策転換は大きな困難を伴うだろう。

 安倍首相は今年秋には自民党総裁選が控え、さらに国民的な議論を呼ぶであろう憲法改正を目指している。アベノミクスによって政権の支持率を高める「ポリティカルキャピタル」(政治的な資本)を蓄積しており、これをフルに活用する必要があるのだ。金融引き締めが円高や株安を生み、ポリティカルキャピタルが縮小することへの懸念は強いだろう。