今回、新たに副総裁に就任する早大教授の若田部昌澄氏は、一段の金融緩和を提唱するリフレ派の理論的な支柱の一人として知られている。若田部氏の副総裁への起用は、異次元緩和の継続に向けた安倍政権のくさびといえるだろう。

早稲田大学政治経済学術院の若田部昌澄教授=2016年6月1日午後、東京都(飯田耕司撮影)
早稲田大学政治経済学術院の若田部昌澄教授
=2016年6月1日午後、東京都(飯田耕司撮影)
 しかし、実は黒田日銀は既に、緩和の縮小へ向けて静かにかじを切り始めている。

 日銀は異次元緩和の総括的な検証を経て、2016年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。黒田総裁は、長期金利をゼロ近辺に誘導することを軸とした新たな政策を「金融緩和強化のための新しい枠組み」と説明した。

 しかし、この政策がスタートすると長期金利をゼロ近辺に誘導することが主軸となり、これまで目玉だった年80兆円国債購入の勢いは急速に鈍った。日銀のこうした手法は、市場では「ステルス・テーパリング」(ひそかな緩和の縮小)と呼ばれ、既に日銀の買い入れペースは50兆円程度までペースダウンしている。

 ここで問題になるのは黒田総裁の説明力だ。

 事実上の政策変更の背景にあるのは、80兆円のペースで買い入れを続ければ、近く市場に流通する国債を日銀が買い尽くしてしまうことにある。「財政ファイナンス」との批判がさらに高まる上、金融政策の正常化への道筋が困難になることへの懸念もあるだろう。

 しかし、日銀は2%の物価目標をまだ達成できていない上、アベノミクスの推進という安倍政権と歩調を合わせることが求められている。

 この難しい状況をすり抜けるために選択されたのが、異次元緩和の旗を掲げ続けながら、緩和をひそかに縮小するという矛盾を秘めた政策運営と説明だと考えられる。

 「サプライズ」と「矛盾」。黒田総裁の説明は、市場や国民から見て分かりにくい上、予測が付かない。こうした説明は、疑心暗鬼を生みやすく市場に混乱をもたらすリスクがある。

 黒田総裁は次の5年の任期中に、マイナス金利や異次元緩和の出口を探ることになるだろう。生みの親である安倍政権から緩和継続の圧力が強まると想定される中、市場との対話を円滑に進めながら、どう出口への道筋を探るのか。黒田総裁が、どのような説明力を見せるのか、注目される。