日銀理事からの昇進である雨宮氏は、企画局長、大阪支店長を経験した「日銀のプリンス」であり、1期目の黒田体制においても政策遂行の実務的な側面を支えた「異次元緩和」の立役者の一人だ。氏の「実践的な能力」について高く評価する関係者の声を聞くことは多い。その一方で、黒田緩和の効果の源の一つである、明確な思想を持って政策パッケージを示し、市場の予想に働きかける発信力は未知数だ。その経歴から、受動的な金融政策を旨とするかつての日銀に近い人物と受け止められることも多い。今後、氏の政策思想が明らかになり、発信とコミュニケーションの力量が明らかになることで、気が早すぎるかもしれないが、次々期総裁への有力候補となるかもしれない。

 もう一方の副総裁候補である若田部氏は、経済学史の研究者として経済危機の中での経済学・経済思想の変遷を追ってきた人物だ。2000年前後から強力な金融緩和の必要性を訴え続けた生粋のリフレ派でもある。その意味で、政策思想は既に明確になっている。国内の経済論壇はもとより、国際会議での活発な討論をみてもその発信力は高い。個人的には本人にその気があるとは思わないが、5年の副総裁任期中で総裁に求められる実務的な視座を得るならば、総裁候補になり得る人物である。

日銀副総裁候補として国会に提示された早大政治経済学術院の
若田部昌澄教授(飯田耕司撮影)
 もっとも、若田部氏には、ごく近い未来に別の役割を期待したい。それが経済学史からの経済理論、それも実務的な政策論への提言である。副総裁が金融政策の理論家や実証分析家以外から選ばれたことを不満に感じている経済学者は少なくないだろう。しかし、理論家や実証家はともすると、現時点で最も正解に近いと考えられる「学会での主流派見解」や「最先端の学説」によって政策を一刀両断に語り尽くすことを好みがちだ。もちろん、それらの「正統派」が正しかったことも多い。しかし、経済(学)の長い歴史をみると「正統派」は時に誤り、時に「正統派」そのものの交代を経験してきたのである。

 正統派の誤謬(ごびゅう)、学会における正統派の転換があり得る環境で、より広い歴史的視点から金融政策決定会合の議論を俯瞰(ふかん)し、近視眼的な決定に陥ることのないよう多様性ある議論を提供する重要性は高い。歴史、それも思想史研究者ならではの視点を実務に提供していただきたい。

 安定感ある総裁、後継者候補になり得る副総裁、新たな視点を提供する副総裁と整理すると、2期目の黒田体制のバランスの良さがよくわかる。もっとも「バランスが良いこと」と「正しく、実効性ある政策を行うこと」はイコールではない。4月からの第2期黒田体制がどのような政策姿勢を打ち出すのか。ここのところ面白みがない政策決定会合に久々に注目が集まろう。