小黒一正(法政大経済学部教授)

 日本銀行の黒田東彦総裁が2018年4月8日、中曽宏、岩田規久男両副総裁は3月19日に任期満了となる。このような状況の中、政府は2月16日開催の衆参両院・議院運営委員会の理事会で日銀の正副総裁人事案を示した。

2018年1月、経済・物価情勢の展望について会見する
日銀の黒田東彦総裁(宮川浩和撮影)
 この人事案は、黒田総裁が続投し、日銀出身の雨宮正佳理事とリフレ派で早稲田大の若田部昌澄教授を副総裁に起用するというものだ。現行の金融政策の枠組みは変えず、現行体制の維持を示すものと考えられる。すなわち、日銀出身の中曽氏の後任は日銀出身の雨宮氏、リフレ派の岩田氏の後任はリフレ派の若田部氏が選出され、「日銀枠」「リフレ派枠」が維持されるということになる。

 毎日新聞の記事によると、リフレ派枠の有力候補は財務省出身でスイス大使の本田悦朗氏であったという。だが、首相官邸や財務省・日銀内部の抵抗もあり、「岩田氏に続くリフレ派の重鎮が見当たらない」(財界関係者)という大きな問題を抱えていたもようである。

 こうした状況の中、若田部氏がリフレ枠で選出されたわけだが、選出方法について、当の若田部氏は『「日銀デフレ」大不況』(講談社)という著書で、今回の人事案との関係で興味深い指摘をしている。

「審議員の選出には、女性枠、産業(非金融・証券業)枠、金融・証券業枠、学者枠などあらかじめ選出される枠が決まっている」
「この選出方法は、外部からの多様な人材を登用できるという利点もある反面、結局のところ、業界や学界から審議員をあまねく選出しようと考える、官僚的な選出方法になりかねない」
「そもそも、経済学の女性研究者は日本では圧倒的に少ない。そのうえ、さらに金融専門となると、選ばれる人は限られてくる」

 また、少し前の話だが、日銀政策委員会のある委員の略歴に関して、「博士課程単位取得退学」と博士号取得者を意味する「博士課程修了」との違いがあったことが問題となった。この問題でも、若田部氏は著書で次のように指摘している。

「日銀の審議員の学歴は大学卒・学士が中心であり、一つの組織や会社で経験を積んだ人物が多い」
「一方、FOMC(米連邦公開市場委員会)のメンバーは大学院の博士号取得者が中心」

 だが、今回の人事案を含めても、原田泰氏を除き、政策委員で博士号取得者はゼロではないかと思われる。

 ところで、岩田氏の後任について、リフレ派の若田部氏でなく、非リフレ派を起用すれば、金融政策の方向性を転換するシグナルとなり、市場が動揺する可能性がある。そのような状況を回避するため、リフレ派枠を維持するという政府内の戦略的な判断があった可能性も否定できない。

 もっとも、続投する黒田総裁は財務省出身の「リアリスト(現実主義者)」である。リフレ派の政策の限界は十分に理解しているはずで、リフレ派枠の維持は実質的な意味を持たない。その証拠として、既に日銀は2016年9月下旬、異次元緩和を軌道修正している。短期金利をマイナス0・1%に誘導するマイナス金利政策を維持しながら、長期金利を0%に誘導する新しい金融政策の枠組みの決定がそれだ。この新たな枠組みは「量」重視から「金利」重視への政策転換を意味する。そして今、黒田総裁の下で日銀はひそかに異次元緩和を縮小する「ステルス・エグジット」を進めており、筆者はこれが続くと予想している。