ただ、金融政策の正常化に向けての課題も多い。

 第一は、増税判断や景気変動との関係である。政府は、2019年10月に消費税率を10%に引き上げる予定であり、安倍晋三首相がその判断を今年秋ごろに行うはずだ。消費増税を実施すれば、マクロ経済に一時的なショックが走るはずで、日銀が「ステルス・エグジット」を順調に進められるか否かを含め、黒田総裁の手腕が求められる。また、2020年の東京五輪開催後は、日本経済の「景色」も大きく変わるだろう。

 第二は中長期的な課題だが、デフレ脱却後に、日銀が金利の正常化に向けて利上げできるか否かだ。物価上昇を抑制するために金融引き締めを行えば、どうしても長期金利の上昇を許容する必要がある。だが、巨額の政府債務が存在する中、それは利払い費の増加を通じて財政を直撃してしまう。したがって、日銀には政治的な独立性が認められているが、選挙で選ばれる政治家とそれほど離れておらず、世論やマスコミから批判を浴び、政治的な強い風圧にさらされることも確実である。

 そうなると、日銀は国債購入を通じて長期金利の上昇抑制を優先し、その結果、貨幣供給が拡大してしまう。これは日銀が直接責任を問われる物価安定の放棄を意味する。つまり、日銀は直接責任を問われる実際の物価上昇の抑制か、財政の救済か、二者択一を迫られることになるのである。

 第三は、米連邦準備制度理事会(FRB)が保有資産の縮小に着手し始め、欧州中央銀行(ECB)も2018年初から資産買い入れの縮小を開始しているという状況にある。この現状が日銀の抱える問題をさらに複雑にする。マネーが世界を駆け巡るグローバル経済の下では、国外の金利水準と比較して、国内の金利だけを低い水準に抑制するのは極めて難しい。世界的な大規模緩和は転換点を迎えており、米国などの長期金利が上昇していけば、日本の長期金利にも上昇圧力がかかるだろう。
2018年2月、米下院金融委員会で証言するパウエルFRB議長(AP=共同)
2018年2月、米下院金融委員会で証言するパウエルFRB議長(AP=共同)
 なお、最後に忘れていけないのは「There is no such thing as a free lunch.」(世の中にただのランチなどない)という経済学の重要なメッセージである。政府と日銀を一体で考える場合、日銀が国債を保有するか否かにかかわらず、統合債務の負債コストは基本的に変わらない。今は金利がおおむねゼロのために負債コストが顕在化していないが、デフレ脱却後に金利が正常化すると、財政赤字を無コストでファイナンス可能な状況は完全に終了し、巨額な債務コストが再び顕在化する。これがまさに「不都合な真実」である。