山田順(ジャーナリスト)

 日本の国税庁の歴史上初めて、国税庁長官が一度も記者会見を開かず、国民と野党のあらゆる追及に聞く耳を持たず、任期を全うしてしまうという「快挙」が達成される日が近づいている。

 「辞めろ!」コールのデモが国税庁前で行われたことも異例なら、市民団体が国会での虚偽答弁を「事件の証拠を闇に葬った」として証拠隠滅容疑で裁判所に告発されたことも異例。さらに、競売物件として購入した土地に建てた「豪邸」マイホームに帰宅せず、公用車乗り放題の「素晴らしき逃亡ホテル生活」を送っていることも異例だ。

 これだけ異例のことをやり続け、慣例通りの1年間の任期をまっとうして退官、その後の「天下りわたり生活」で生涯年収8億円となれば、「快挙」というより「偉業達成」であろう。

 佐川宣寿(のぶひさ)国税庁長官は、偉業を成し遂げるだけあって、さすがに群を抜いた秀才である。福島県のいわき市出身で、高校は東京の九段高校。浪人して東大の経済学部に入学すると、農業経済を専攻して卒業、1982年に旧大蔵省に入省した。

 入省後は、まさに絵に描いたような「バリキャリ」出世街道まっしぐら、「財務省恐竜番付」に登場する「部下イジメ」をやりつつ、上には覚えめでたしの役人生活を送ってきた。2001年には、当時の塩川正十郎財務相の秘書官を勤め、「強きを助け弱きをくじく」という「官僚道」に忠実に生きると、主計官、理財局長と順次出世。その後、昨年7月の定例人事で国税庁長官に就任した。

 安倍首相はこの人事を「適材適所の人事」と言ったため、野党と国民の反感を買ったが、本来なら、こう言わなければならなかった。「財務省の『上がりすごろく』通りの人事を行って、なにが悪いのでしょうか?」。それほど、佐川氏は秀才エリートなのである。
2017年3月、衆院外務委で答弁する財務省の佐川宣寿理財局長(中央)。左は安倍晋三首相、右は稲田朋美防衛相(斎藤良雄撮影)
2017年3月、衆院外務委で答弁する財務省の佐川宣寿理財局長(中央)。左は安倍晋三首相、右は稲田朋美防衛相(斎藤良雄撮影)
 したがって、退官後は退職金約7000万円をもらった後、秀才エリートに約束されたバラ色の「天下りわたり生活」が待っている。次に挙げる主な歴代の国税庁長官たちの例を見れば明らかだろう。

退官年と主な天下り・わたり先

小川是氏(1996年退官):日本たばこ産業会長、横浜銀行頭取・会長
竹島一彦氏(1998年退官):公正取引委員会委員長
寺澤辰麿氏(2004年退官):横浜銀行頭取
大武健一郎氏(2005年退官): 商工組合中央金庫副理事長、大塚ホールディングス(HD)副会長
石井道遠氏(2009年退官):東日本銀行頭取
加藤治彦氏(2010年退官):トヨタ自動車取締役
林信光氏(2015年退官):国際協力銀行専務
中原宏氏(2016年退官):信金中央金庫理事・顧問

 ちなみに、大武氏を例にとると、退官後はまず商工中金副理事長へ天下り、その後、2008年には大塚HD副会長にわたりをしている。同社の2011年度の有価証券報告書によると、大武氏への年報酬は約1億2000万円となっている。しかも大武氏は、国税庁の有力天下り先の一つ、TKC全国会(税理士、公認会計士が加盟する全国組織)会長、税務大学校客員教授、人事院公務員研修所客員教授などを歴任している。