高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 2018年2月25日、中国国営新華社通信は中華人民共和国憲法改定案を発表した。3月5日から約2週間にわたり開催される全国人民代表大会(全人代)で最終的に決まるとはいえ、既に党上層部のコンセンサスが取れているため、提案通りに改定されることは間違いない。

 中心は国家主席の任期を連続2期までとする制限の廃止だ。中国の最高指導者には共産党総書記、国家主席、軍事委員会主席の三つの肩書きがあるが、そのうち任期規定があるのは国家主席のみ。この制限を廃止したことで、論理的には習近平による終身政権も可能となる。

 毛沢東の死後、中国は大きく転換した。定期的なトップ交代を実現し安定的な政治環境を作り上げ、市場経済を導入し高度成長を実現してきた。約40年間にわたり続いてきた中国の大方針が今大きく転換しようとしているのではないか。世界は大きな驚きで「習近平の中国」の変化を見つめている。

中華民国大総統、中華帝国皇帝の袁世凱
 一方、実際に中国に住む市井の人々は改憲を、そして習近平の統治をどう考えているのだろう。日本をはじめ各国の報道では、中国のインターネット上で批判があふれていることが取り上げられた。まとめると以下のような話になるだろうか。

 よく知られているとおり、中国のネットは厳しい検閲が敷かれているため、直接的な批判は難しい。そこで「車をバックさせる動画」で改憲は時代の逆行だと揶揄(やゆ)する。あるいは中華民国期に皇帝として即位した袁世凱の名前を出したり、袁が定めた元号「洪憲」や袁が作った銀貨「袁大頭」などの語句を使って、習近平が皇帝に即位しようとしていると風刺した。こうした婉曲(えんきょく)的なキーワードもすべて検閲対象となったが、今度は「移民」というキーワードの検索数が急上昇。ネットユーザーは書き込みではなく、検索という行動で不満を表明したわけだ。その結果、検閲トレンドでは「移民」がホットキーワードに。検索トレンド表示サイトまでも検閲対象になる異例の事態となった…

 と、こうした報道を見ると、習近平の改憲に中国人は大きな不満を抱いていると感じてしまうが、そうした理解には落とし穴がある。日本もそうだが、ネットのブームと現実のブームはまったく別物だ。政治に関してもネット世論と一般の世論は完全に異なる。

 日本ならばソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のホットトレンドや人気と世論調査の隔たりを比べれば、違いが一目瞭然だ。でも、世論調査が禁じられている中国では、一般市民の意見を知るためのツールはネットしかない。そのため、ネットの流行やムードが過剰に注目されるという側面が強い。