江崎道朗(評論家)

 中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、ついに長期独裁の野望を隠すことをやめたようだ。

 なにしろ3月5日に始まった全国人民代表大会(全人代)において、国家主席の任期制限をなくす憲法改正に踏み切るというのだ。そうなれば、習氏は2期目が終わる2023年以降も国家主席にとどまることが可能になる。

 習氏率いる中国共産党政府による横暴は近年、目に余る。尖閣諸島を含む東シナ海での挑発行動だけでなく、南シナ海のスプラトリー群島による基地建設、ミャンマーやスリランカなどの港湾使用権の奪取と、軍事力と経済力を使った強引な拡張主義は、アジア太平洋諸国の反発を買っている。

 そして、この中国の拡張主義が、トランプ政権を誕生させたという側面があるのだ。

 2013年、中国人民解放軍は「ショート・シャープ・ウォー」(短期激烈戦争)といって、ミサイルと海上民兵によって沖縄・南西諸島を攻撃し、米軍が助けに来る前に日本を屈服させるという軍事侵攻計画を作り、その訓練を実施した。

 この「ショート・シャープ・ウォー」の情報をアメリカ太平洋艦隊の情報部門の責任者であるジェームズ・ファネル大佐がつかみ、この情報を同盟国日本に伝えるべきだと提案したのだが、オバマ民主党政権は否定的だったという。

 そこでファネル大佐は、あるシンポジウムでこの情報を漏らした。当然のことながらアメリカでは大騒ぎになり、「ショート・シャープ・ウォー」は米国防総省の2014年版の『中国に関する年次報告書』にも明記された。が、ファネル大佐は、この情報を漏らしたことが原因で米軍を辞めざるを得なくなったと聞いている。南シナ海での中国による軍事基地建設を阻止する活動も、米軍はさせてもらえなかった。

 このようにオバマ前大統領の下で米軍は、中国の脅威に立ち向かう活動をさせてもらえなかった。加えて国防予算も削られたため、米軍幹部の中には、オバマ民主党政権の安全保障政策を自嘲的に「アメリカ封じ込め政策」と呼んでいる人もいたほどだ。
2016年9月、中国浙江省杭州で開かれた米中首脳会談に臨むオバマ米大統領(左、当時)と中国の習近平国家主席
2016年9月、中国浙江省杭州で開かれた米中首脳会談に臨むオバマ米大統領(左、当時)と中国の習近平国家主席
 そのため2016年の大統領選挙では、米軍再建を主張するトランプ候補(当時)を、米軍関係者は死にもの狂いで応援した。この応援がなければ、アメリカはヒラリー民主党政権になっていたはずだ。

 そもそもアメリカは一枚岩ではない。オバマ大統領のように中国びいきの人たちをパンダ・ハガー(パンダに抱きつく人)という。一方、中国の台頭に警戒心を抱いている人たちもいて、ドラゴン・スレイヤー(竜を退治する人)と呼ばれる。このドラゴン・スレイヤーの筆頭格が、尖閣危機の情報をリークしたファネル大佐だ。

 では、中国はなぜこんな軍事大国になったのか。それは経済的な発展を遂げているからだ。言い換えれば、中国の経済発展をスローダウンさせれば中国軍の力は落ちる。そこで通商、金融、軍事、外交を組み合わせて中国の軍事的台頭を抑制しようという対中政策を提唱しているのが、『米中もし戦わば』(文藝春秋)という本を書いたピーター・ナヴァロという経済学者だ。核ミサイルを大量に保有している中国と戦争するのはもう無理だから、通商・金融政策で中国の経済力を奪い、軍事能力を奪っていく方策をとろうというわけだ。