重村智計(早稲田大名誉教授)

 韓国と北朝鮮は6日、4月末に板門店で3回目の南北首脳会談に合意した。合意は、会談場所と米韓合同軍事演習の「是認」、南北首脳のホットライン以外は目新しいものはない。北朝鮮は核放棄への明確な言及を避けた。資金獲得と制裁緩和を狙ういつもの「目くらまし戦略」だ。トランプ米大統領は首脳会談を歓迎しながらも「希望は裏切られるかもしれない」と慎重だ。

 韓国と北朝鮮は、首脳会談を4月末とすることで軍事演習の短縮を目指している。まさか首脳会談中に演習はあるまいと期待している。そうすると、北朝鮮は5月の田植えの時期に兵士を動員できる。建国当初から兵士の動員なしに田植えは困難だからだ。

 日米両政府は最近、北朝鮮の海上での「瀬取り」による密輸を摘発し、シリアへの化学兵器の闇ビジネスを報道させ、南北首脳会談をけん制してきた。米国は米韓合同軍事演習を4月から行うと首脳会談の「妨害」に動いた。

 それに挑戦するように、韓国と北朝鮮は特使を派遣し合い、首脳会談に合意した。首脳会談をめぐり、「南北対日米の戦争」が展開された。米国は平昌五輪の開会式にペンス副大統領を派遣し、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹の与正(ヨジョン)氏との会談との北朝鮮提案を受け入れたが、直前に北が拒否した。これは、明らかに「北の外交敗北」であった。

 それでも南北は首脳会談実現に突っ走った。北朝鮮は、平昌五輪の閉会式に金英哲(キム・ヨンチョル)統一戦線部長を派遣し、秘密会談を行った。ここで特使派遣と首脳会談の条件が話し合われた。最大の懸案は米韓合同演習の継続問題であった。韓国側は、パラリンピック後の軍事演習開始を伝えた。

 金委員長は、それでも特使派遣を受け入れ、米韓合同軍事演習を「理解する」と述べた。これは、「軍事演習」を理解すると言ったのではなく、軍事演習中止に努力した「韓国側の立場」を理解すると述べたのだろう。この発言を、韓国側は米国の気を引いて米朝対話につなげるために、意図的にミスリードしたのではないか。
会談し握手を交わす韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。金委員長が抱えているのは文在寅大統領からの親書=2018年3月5日、平壌(韓国大統領府提供・共同)
会談し握手を交わす韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。金委員長が抱えているのは文在寅大統領からの親書=2018年3月5日、平壌(韓国大統領府提供・共同)
 なぜ首脳会談を急いだのか。北朝鮮は米国の軍事攻撃を最も恐れており、それを阻止したい。そのためには南北首脳会談が一番だ。北朝鮮への制裁が相当な効果をあげている事実がある。石油制裁が北朝鮮軍を追い詰めている。日本での論議は、北朝鮮の深刻な石油不足を理解していない。

 国連によると、一昨年までの北朝鮮の石油輸入量は原油50万トン、石油製品約70万トンで合わせて120万トンであった。密輸を合わせても最大150万トンだろう。日本の石油輸入量は2億トンだ。北朝鮮軍は「世界で最も石油の乏しい軍隊」である。それなのに、今年は原油と製品合わせて70万トンに減らされる。海上での密輸も発見された。

 これでは軍は戦闘能力を失い、崩壊の危機に直面する。現在の体制を維持しているのは、軍と秘密警察だから事態は深刻だ。北朝鮮の譲歩は、国連や日米の経済制裁が効果をあげた結果である。特に石油製品の輸入禁止は、体制の崩壊につながりかねないとの危機感がある。