トランプ大統領が首脳会談に臨む真の目的は「支持率の上昇」「秋の中間選挙への利用」「次期大統領選挙への野望」の三つだ。

 言わずもがな、トランプ外交は内外で批判され続けている。特に欧州各国は彼をまったく尊敬していない。戦後、これほど欧州で不人気の米大統領は初めてだ。教養がなく知性と品格に欠けるとみられている。歴史と文化の教訓に学ぼうとしない態度を欧州はもはや我慢できないのである。

 この不人気を打破するために、金委員長との会談を利用しようとしている。「金正恩に最初に会う外国元首」としてメディアに大きく扱わせる。特に、金委員長をワシントンに招待できれば、世界中の話題を独占して、中国やロシアの鼻を明かすこともできる。支持率は上昇し、その勢いで中間選挙も乗り切りたいとの思惑はみえみえである。
2018年3月8日、ホワイトハウスで会談する韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)とトランプ米大統領(韓国大統領府提供・共同)
2018年3月8日、ホワイトハウスで会談する韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)とトランプ米大統領(韓国大統領府提供・共同)
 とはいえ、米朝首脳会談は本当に成功するのか。はっきり言って、乗り越えるべき難問が余りに多すぎる。まず、北朝鮮は絶対に核放棄を約束できない。金委員長は朝鮮人民軍を掌握はしたが、核放棄を宣言すれば軍が反乱を起こしかねない。クーデターに直面するリスクをはらんでいるのである。不満を抱く中国やロシアも、裏でクーデターを画策する可能性もある。

 さらに、会談場所をどうするのか。北朝鮮の指導者は海外に出掛けるつもりはない。これに対し、トランプ大統領は是が非でも米国に呼びたい。ただ、金委員長にとっては訪問の隙を突いて、北朝鮮国内でクーデターが起きるかもしれない。もし第三国でやるのであれば、北朝鮮側は中国の顔を立てて、北京を提案するかもしれない。

 一方で、トランプ大統領が北朝鮮を訪問すれば、米国内で批判が高まるのは必至だ。かつてのオルブライト国務長官の訪朝時のように、マスゲームを見せられ、人権問題に言及しなければ「失敗」と非難される。

 金委員長は、首脳会談を盛り上げて少しでも制裁を緩和させ、今年9月の建国70周年の式典を盛り上げたい。米国に近づき、中国とロシアの気も引き、ひそかに支援を得る戦略だ。韓国も協力するとみている。

 この北朝鮮の戦略と作戦に乗せられると、トランプ大統領は必ず失敗する。トランプ大統領は安倍晋三首相と協力し、「成功しなくてもいい」と腹をくくり、これまでの強硬政策を継続しないと足をすくわれる。

 トランプ大統領に「石油制裁が最も効果的だ」と伝えたのは他ならぬ安倍首相だった。トランプ大統領も、北朝鮮政策をめぐる安倍首相の判断力を信頼している。「制裁を継続すれば北朝鮮は譲歩する。もう少しだ」との理解を二人は共有している。

 だからこそ、トランプ大統領が安倍首相を出し抜いて、米朝正常化に踏み切る恐れはまずないと断言できる。北朝鮮は米韓合同軍事演習に反対し、核実験を続けた。その上、米国とトランプ大統領を激しく罵(ののし)った。これまでの対応を180度転換した金委員長の譲歩は、結果的に「北朝鮮外交の敗北」を意味するのである。

 日本は米朝首脳会談で拉致被害者の帰国を強く訴えるだろう。「拉致被害者の帰国なしには、米朝国交正常化はない」との立場を共有しなければならない。拉致被害者の帰国を、日米同盟の基本的な価値として改めて確認すべきだ。