2018年03月12日 11:27 公開

英南西部ソールズベリーで4日にロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)に神経剤が使われたとされる殺人未遂事件に関して、英政府は11日、2人が倒れる前にいたパブやレストランを当日や翌日に利用した人約500人に、所持品を洗うよう呼びかけた。

スクリパリ氏とユリアさんが食事をしていたイタリア・レストラン「ジッジ」のチェーン店で、2人がいたテーブルの上や周囲から、微量の神経剤が発見されたことが、BBCの取材で分かった。テーブルをはじめ、店内で汚染された物はすべて撤去・破棄されたという。

微量の神経剤は、ソールズベリーのパブ「ザ・ミル」のテーブルからも検出された。2人は店内でほかの客から離れたテーブルで食事をしていたという。

化学兵器の専門家たちは警察に、2カ所の店舗が営業を再開できるようになるまで何週間もかかると話している。

スクリパリ氏とユリアさんは重体が続いているが、容体は安定しているという。

英政府主席医務官のデイム・サリー・デイビス教授は、2人と同時に店内で食事をしていた客が健康被害に遭うリスクは「低い」と話している。

英政府は、2店舗に現地時間4日午後1時半から5日の閉店時間までの間にいた人全員に、衣服や所持品を洗うよう勧告した。主な勧告内容は次の通り――。

  • 衣類はできれば洗濯機で洗う
  • ドライクリーニング限定などで水洗いできない衣類は、当面は二重のプラスチック袋で密封し、当局の情報提供を待つ
  • 携帯電話、ハンドバッグ、その他の電子端末はウェットティッシュで表面を拭く。使用したウェットティッシュはプラスチックの袋に密閉し、ごみ箱に入れる
  • アクセサリーや眼鏡などは温水と洗剤で洗う
  • 汚染された可能性のある物品を扱った場合、両手を石鹸でよく洗う

デイビス教授は、「厳密な科学分析」の結果、2店舗で付着した神経剤を数週間や数カ月にわたり浴び続けた場合、健康上の問題が起きるかもしれないと懸念されているが、「パニックの必要はない」と述べた。勧告はあくまでも「念のため」の措置で、両店舗の「利用客やスタッフが被害を受けた事実はないと確信している」という。

しかし、ソールズベリーの住民たちは、なぜもっと早くに勧告が出さなかったのかと懸念している。

4日午後に妻や犬と「ザ・ミル」に数時間いたスティーブ・クーパー氏は、BBCに対して、激怒していると話した。

靴や時計や電話を拭くつもりだが、ウェットティッシュで神経剤が落とせるのか心配だという。

同じころに一緒にパブにいて、スクリパル氏がトイレに向かうのを目にした自分の友人には、当日何を着ていたかもはや覚えていない人もいるという。

クーパー氏はさらに、「自分と妻への長期的な影響がどうなっているのか知りたい」と話した。

デイム・サリーは、使用された神経剤の特定は「非常に緻密な作業」で、「科学的な検査には時間がかかるもの」だが、勧告まで時間がかかったことによる悪影響はないと話している。

英リーズ大学のアラスター・ヘイ名誉教授(環境毒物学)は、神経剤は自然界で劣化するものだと説明する。

「水分に触れれば、神経剤は分解する。先週の日曜や月曜に問題のレストランやパブを訪れた人は、所持品を洗うよう言われているのはそのためだ」

スクリパリ氏とユリアさんは、ソールズベリーにあるショッピングセンターの外のベンチで倒れているところを発見された。2人を真っ先に助けようとしたニック・ベイリー刑事巡査部長は重体で入院したままだが、家族と会話しているという。

捜査当局は、2人が事件前に訪れていたパブとレストランのほか、スクリパリ氏の自宅と、同氏の妻と息子が埋葬されている墓地も調べている。

地元ウィルトシャー警察のキーア・プリチャード本部長は11日の記者会見で、捜査対象となっている複数の現場の立ち入り禁止がいつまで続くか「はっきりしたことは言えない」と述べた。

救急車をはじめ捜査対象車両を撤去するなど、英陸軍も警察の捜査を支援している。

対テロ専門の警察官250人以上が捜査に参加しており、これまでに目撃者240人以上を特定し、証拠品200点以上を発見した。

ソールズベリー大聖堂の礼拝で11日、ニコラス・ホルタム主教は、「2人の個人に対するショッキングな攻撃」であると同時に、「私たちのコミュニティーへの侵害」だったと述べた。

スクリパリ氏はロシアの退役情報将校で、英情報部MI6に機密情報を提供していた罪で2004年にロシアで有罪となっているが、スパイ交換によって釈放され、2010年から英国で生活していた。

ロシア政府は一切の関与を否定している。

(英語記事 Russian spy: Salisbury diners told to wash possessions