しかし、官僚社会の「終身雇用・年功序列」というシステムが彼を変えてしまった。このシステムは年齢によって昇進するという「年齢差別」を前提としているので、人はまず差別主義者になる。さらに、キャリアとノンキャリアという階層があり、キャリアにも出先キャリアと本省キャリアがあるという身分社会を生きなければならない。だから、いつの間にか嘘も平気でつき、上からの命令に絶対服従の人間をつくってしまうのである。

 佐川氏は、このシステムの「上がりすごろく」を確実に歩んできたので、長官退職時における退職金約7000万円、その後の「天下り・わたり」による生涯年収約8億円を達成するためには、自分の良心ですら裏切ったとしか言いようがない。そうでなければ、最後の最後に「はしご」を外されるまで、約1年間も沈黙を守り続けた理由が分からない。

 「終身雇用・年功序列」システムはすでに崩壊したといわれている、民間企業では、非正規雇用者が4割に達したことでも分かるように、もう今までの雇用制度は維持されていないからだ。しかし、それは大きな間違いで、特に大企業ではこのシステムがいまだに生き残っている。その証拠に、ここ20年余りで次々に起こった「偽装事件」の説明がつかない。

2018年3月、記者会見で険しい表情を見せる
神戸製鋼所の川崎博也会長兼社長
 「書き換え」=「偽装」。つまり、嘘をつく、人を欺くことが、この日本でどれほど起こってきたのか挙げていけばきりがない。

 つい先日も、神戸製鋼所のデータ改竄(かいざん)が発覚したと思ったら、三菱マテリアルでも同様の問題が明らかになった。日立製作所は国土交通省の認定に適合していないエレベーターを1万台超も設置していたことを発表した。もっと遡れば、日産自動車による検査不正や三菱自動車の燃費不正、自動車部品メーカーのタカタの欠陥エアバッグ事件も起こった。また、東芝の粉飾決算事件だって、データ偽造により株主と投資家、世間を欺く行為だった。

 まだまだ事例はある。2001年に発覚した牛肉偽装事件に端を発する一連の「食品偽装事件」は、いかに記載されたデータが信用できないかを私たちに教えてくれた。雪印食品の牛肉、ミートホープ、赤福餅、白い恋人、船場吉兆など、みな虚偽記載を行っていた。そして、2013年には大手ホテル、デパート、レストランなどで、食材の偽装表示が次々に発覚した。

 さらに、偽装といえば、2005年に発覚した「耐震構造計算書偽造事件」がある。この事件は裁判で建築士個人の犯罪とされたが、そうではあるまい。しかも、それから10年たった後、今度は旭化成建材のデータ改竄が発覚した。

 もう一つ、データ改竄で忘れられないのは「STAP細胞はあります!」というあの声だ。なんと学術論文までデータが偽装されていたのである。この件でも本当に痛ましい自殺者が出ている。