小黒一正(法政大経済学部教授)

 学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却に関する決裁文書を財務省が書き換えたとされる疑惑は、いくつかの報道によると、財務省が書き換えを認める方針を認め、12日に決裁文書や関連文書を国会に報告した。書き換え前の決裁文書は検察が写しを提供したとの報道もあるが、元行政官として、財務省が決裁文書の書き換えをするとは、今でも信じられない。

 というのは、数字のミスや事実関係の訂正などを除き、決裁文書を書き換えるということは通常しない。それを超えて、決裁後の文書を書き換えれば、刑法上、虚偽公文書作成等罪(同法156条)などの罪に問われる可能性もある。だから、相当の圧力がない限り、あり得ない対応であるからである。

 国家財政や税制の中枢を担う誇り高い財務官僚を含め、通常の行政官が「忖度(そんたく)」で対応できる水準を明らかに超えている。決裁文書の書き換えを行い、それが明らかになれば、財務省に対する信任が低下し、今後の財政再建の議論にも影響を与えることくらい、容易に想像できたはずだ。
財務省の調査結果で報告された、書き換え前(左)と書き換え後の文書。下線部が消えている
財務省の調査結果で報告された、書き換え前(左)と書き換え後の文書。下線部が消えている
 にもかかわらず、決裁文書の書き換えを行っていたのであるから、何か相当な政治的な圧力があったとしか思えない。削除部分に複数の政治家や安倍昭恵首相夫人の名前があったこともわかった。また、現時点で今回の事件との因果関係は完全に断定できないが、財務省近畿財務局で売却交渉の担当であった職員に関する悲惨な事件もあり、その悲痛な思いを解明するためにも、徹底的に真相を究明する必要がある。

 つまり、誰が何のために、このような書き換えを指示あるいは行ったのか、その理由や背景を明らかにする必要がある。また、麻生太郎財務大臣は、書き換えの最終責任者が佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官であるとの認識を示したが、その背後に潜む疑問も多く、国税庁長官の辞任で済む話ではない。今後明らかになる事実によっては、国税庁長官に対する麻生氏の任命責任や、安倍晋三首相の責任問題に発展する可能性も否定できない。

 最近、民間の上場企業の不祥事も多いが、刑事責任を問う捜査に影響があるからといって、第三者委員会などによる調査をしないということにはならない。上場・株式公開のことが英語でgo publicともいわれるように、ステークホルダー(利害関係者)に説明責任があるからだ。税金で運営される行政であれば、なおさら国会をはじめ国民に説明が求められる。捜査を理由に公(public)への説明を逃げているとみられることが、財務省ひいては政権の信頼失墜に拍車をかけている。

 なお、主権者であるわれわれ国民が選挙によって政治を正すためには、政策形成プロセスを含む情報の量や質が重要な鍵を握る。この情報の量や質に深く関係するのが、適正な公文書管理なのである。それは、公文書管理法にあるように、国民主権の理念にのっとり、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者であるわれわれ国民が正しい情報を得て民主主義的な判断を行うためのものである(第1条)。