松中権(認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表)

 平昌五輪の会場で、フリースタイルスキー男子のガス・ケンワージー選手(米国)と応援に来ていた恋人で俳優のマシュー・ウィルカスが、予選突破の願いを込めるようにキスをする様子がテレビ番組で生中継され、世界中で話題になりました。

 「子供のころ、五輪中継でゲイカップルのキスを見る日が来るとは夢にも思っていなかったよ。だけど、いまの子供たちは、実際にテレビで見ることができるんだね。愛は、愛。愛だよね」

 このケンワージー選手のコメントが象徴するように、スポーツ界はLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)などの性的少数者に対する偏見や差別意識がとても強い「閉じた世界」といわれています。そもそも男女で分かれる競技がほとんどで、内在化する同調圧力によりホモフォビア(同性愛嫌悪)、バイフォビア(両性愛嫌悪)、トランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)が生まれやすく、カミングアウトする当事者が少ないため、いじめや暴力も表面化しにくいとも言われています。
フリースタイルスキー男子、米国のガス・ケンワージー選手(AP) 
フリースタイルスキー男子、米国のガス・ケンワージー選手(AP) 
 米国の調査では、当事者の子供たちが不安や不快を感じて避けている学校内の場所として、更衣室や体育の授業、運動場、体育施設が上位を占め、体育の授業や部活動などへの参加率も低いという結果も出ています。

 そんなスポーツ界が性的少数者の問題に自覚的になるきっかけとなったのが、1998年に英国の人気サッカー選手、ジャスティン・ファシャヌさんがゲイであると告白したことでしょう。その後、チーム内のいじめやファンからのやじ、罵声、嫌がらせが続き、所属チームとはフルタイム契約を結べず、最終的には自殺という結果を招きました。これを機に、本当に少しずつですが、さまざまな競技団体や関連企業などにおいてスポーツとLGBTなどについて議論するようになり、当事者のアスリートたちが悩む必要のない環境づくりに向けた活動が始まりました。

 LGBTなどに関する世界的な活動機運とも重なり、2010年のバンクーバー冬季五輪で、「プライドハウス」という取り組みがスタートします。地元のLGBT団体が立ち上げた期間限定のホスピタリティ施設で、「世界中から集まる当事者アスリートやその家族、友人、観光客などが安心して集える場所を」というコンセプトのもと企画されました。

 「プライドハウス」は、広く一般市民向けにLGBTなどに関する情報発信が行われるとともに、以降は五輪・パラリンピックだけでなく、サッカーワールドカップ、コモンウェルスゲームズ(英連邦に所属する国、地域の選手が参加)など、国際スポーツ大会の開催にあわせて、それぞれ地元の団体により、自発的に立ち上げられてきました。

 さらに大きなスポーツとLGBTに関するムーブメントは、2014年のソチ冬季五輪でした。大会直前に同性愛宣伝禁止法を制定したロシアを非難し、先進諸国の首脳陣の多くが開会式を欠席したのです。世界中のLGBT関連団体が企業や市民を巻き込み連帯する中、「プライドハウス」の過去の主催団体と今後立ち上げを目指す団体が手を取り、「プライドハウス・インターナショナル」というネットワークも生まれることとなりました。