疑問1 ES細胞でSTAP細胞を捏造できるのか?


 疑問の第一は、ES細胞を使ってSTAP細胞を捏造することがそもそも可能なのか? という疑問である。

 復習すると、ES細胞は受精した受精卵が細胞分裂を行い、増えた細胞のなかから得られる細胞である。それは、受精卵の細胞分裂で生じた初期胚の一部である。それ(ES細胞)を他の個体の受精卵に混入すると、その受精卵の細胞と混在する形で、胎児の体を形成する過程に加わることが起こりえる。

 しかしES細胞は、胎児と母体を繋ぐ胎盤の形成には加わらない。ES細胞は、他の受精卵から生じた胎児の体の一部になっていくことはあっても、胎盤の一部にはならないのである。

 これは、発生生物学の常識である。この「常識」に異論を唱える専門家は事実上、いない。ところが、小保方さんや若山教授が『Nature』に発表した論文によれば、小保方さんがマウスから得てSTAP細胞と呼んだ細胞は、若山教授による処理を経てマウスの受精卵から生じた初期胚にそれを注入したところ、マウスの胎児のみならず、その胎児と母体を繋ぐ胎盤をも形成したとされた。

 これが本当ならば、小保方さんが作製したSTAP細胞から若山教授が作製した細胞を、小保方さんや若山教授がES細胞ではない別の新しい万能細胞(多能性幹細胞)だと考えるのは当然だろう。だからこそ、当初、小保方さんや若山教授は「胎盤が光った」と言って喜んだのである。

 しかし、今回の理研の発表は、その「胎盤」に見えた細胞の塊は実は胎盤ではなかったのだろう、と述べている。小保方さんがSTAP細胞と呼んだ細胞は、当初発表されたように胎盤を形成してはおらず、胎盤でない細胞塊を若山教授を含む著者たちが胎盤と見誤ったものだというのが、理研の「結論」である。

 しかし、理研のこの「結論」には根拠がない。たしかに、若山教授らが胎盤でない細胞塊を胎盤と見誤った可能性はあり得るが、若山教授が実際にそうした見誤りをしたことの証明は、理研の発表のなかにはない。

 この分野の世界的権威である若山教授がそのような見間違いをしたとする理研側の主張には、何も根拠がないのである。

 したがって、若山教授らが見た細胞塊が、真実、胎盤であった可能性は依然、否定されていない。

 これは科学上の問題である。したがって、他の自然科学の問題と同様、多くの違う研究者が同じ実験を繰り返して胎盤が形成されるかどうかを観察する以外に結論の出しようがない問題なのである。

 それなのに、今回の発表をもって「あれは胎盤ではなかった」と結論づけることは、およそ科学の姿勢ではない。仮に、小保方さんや若山教授がマウスの胎盤だと判断した細胞塊が胎盤であったのなら、STAP細胞はES細胞ではない。胎盤の問題は、それほど決定的な論点である。

 それにもかかわらず、根拠を示さないまま「あれは胎盤ではなかった」と理研が主張する理由を私は理解できない。