そうした緑色に発行した細胞が初期化された細胞、つまり万能細胞なのか、それとも単なる死んでいく細胞なのかは、最終的にはその細胞を他のマウスの初期胚に注入してどうなるかを見なければ分からないのである。だからこそ、緑色に発光したそれらの細胞を一定の処理のあと、他のマウスの受精卵に注入する実験を小保方さんは若山教授に託したのである。

 注入された細胞がマウスの胎児や胎盤を作り上げればそれは万能細胞だし、作り上げなければ万能細胞ではないことになる。そのプロセスは高度の技術を求めるので、この分野の権威である若山教授が小保方さんの要請を受けた形で、それを試したのである。

 すると、小保方さんが若山教授に渡したそれらの細胞は、別のマウスの受精卵の細胞と混じり合って増殖し、その受精卵を胎児に成長させた(これがキメラである)。それどころか、その混じり合った細胞の集まりはマウスの胎盤まで形成した、と若山教授は判断した。

 このプロセスがES細胞を使った捏造だというのであれば、小保方さんの行動は全く不合理なものとなる。小保方さんは、自らがマウスから得たあの緑色に光る細胞をSTAP細胞だと思ったのではないだろうか? 

 それならば、そう思っているのに彼女がその細胞ではなく(!)、あえてES細胞か、あるいはES細胞を混入した細胞を若山教授に渡した理由は一体、何なのだろうか?

 不眠不休の実験を重ねながら、自分が得た細胞はSTAP細胞などというものではないと思ったのだろうか? 自分が作製した細胞はSTAP細胞などではないと認識したから小保方さんはES細胞を渡したか、あるいはES細胞を混入した細胞を若山教授に渡した、というのだろうか?

 一体なぜ、やってみなければわからないキメラ形成の実験において、初めからSTAPが存在しないと思っているのでなければ意味を持たないES細胞混入をする必要があったのだろうか?

 私のこの問いに対して、「何度やってもうまくいかなかったが、論文発表の期限が迫っていた。それでES細胞を混入させたのだろう」という仮説を言った人がいる。

 しかし、昨年春の騒動のなかで論文撤回に最後まで抵抗し、理研上層部に従おうとしなかった小保方さんのその後の行動を思い出すと、彼女がそのような組織の要請に応じて自分の実験を放棄するとは考えにくい。

疑問4 FACSは役に立たなかったのか? 


 これは非常に専門的な問題である。小保方さんが、Oct4─GFP陽性細胞というあの緑に光る細胞を作製した際、亡くなった笹井氏が記者会見で強調したように、理研の研究者たちはもちろん、それを直ちにSTAP細胞という万能細胞であるとは認識しなかった。死んでいく細胞も同じように緑色に発光することがあるからである。

 そこで、理研の研究者たちがその点を確かめるために行った実験の一つが、FACSと呼ばれる実験である。これは、浮遊した細胞を機械で識別する光学的な装置で、こうした細胞を鑑別する際、広く利用される方法である。

 笹井氏はこのFACSを使って、小保方さんが作製した緑色に光る細胞が「死んでいく細胞ではないと確認した」と述べていた。笹井氏のこの指摘は間違っていたのだろうか? FACSは死んでいく細胞と万能細胞を見分けるうえで、そんなに無力だったのだろうか? 「捏造」を唱える専門家のなかにも、FACSの信頼性そのものを疑う人は、私がいままで議論した人々のなかにはいなかった。