古川雅子(ジャーナリスト)

 世の中、「不老」ブームである。発端は、世界的なベストセラーになった著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著)だ。テーマは「100年時代の人生戦略」。著者の一人、リンダ・グラットンさんは、日本政府の「人生100年時代構想会議」に有識者議員として起用されている。

 かつての不老ブームといえば、できるだけ長く健康な状態を保つという意味合いだった。「ピンピンコロリ」を目指そう! などと叫ばれた。これは、長寿国日本の「寝たきり大国」を揶揄(やゆ)した言葉で、「不健康長寿国」になるのを防止するためのスローガンだった。長くベッドに横たわる「ネンネンコロリ」に陥らないようにと。病床数が増えすぎた、日本の医療事情を是正するためのテーマでもあった。

 それに対し、今回の「不老」は「長く働ける」という意味合いだ。なにせ、ブームの端緒になった本の著者は、英ロンドンビジネススクール教授のグラットンさんと、その同僚で経済学の権威、アンドリュー・スコットさん。そのメッセージはズバリ、人生100年時代という「長すぎる老後」にどう備えるか-。仕事やお金を中心としたライフプランの再考を促すものだ。

 私も、この著書は読んだ。40代で特にマネープランを立てることもなく生活に追われている私自身、「うわっ、将来どうなっちゃうの?」と不安になった。一人の生活者が長期的な視野に立ち、生活や人生の設計を見直すという意味で、大事なテーマだとは思う。個人が時代のうねりに対応していこうとする動きに、なんら異論はない。

 だが、一方で引っ掛かりも感じた。私は仕事柄、がんや認知症の人、難病で苦しむ人にインタビューを重ねてきた。一年一年を生きていくことに必死であり、働きたいのに働き続けられない。そんな、もがきの声を聞き取ってきた。だからこそ、政府も含め、社会全体がこのブームに「乗っかって」、人生の後半を築き上げるのは「自助努力」や「自己責任」だと押しつける動きには違和感を覚える。それは長く働けない人にとっては「社会圧」と映る。私は、長く働きたい人は応援しつつも、長く働けない人であっても排除されない社会をつくるという視点での発信も、もっと増やしていくべきだと考える。
日本年金機構本部=2010年10月撮影
日本年金機構本部=2010年10月撮影
 政府は2月16日の閣議で、中長期的な高齢者施策の指針となる「高齢社会対策大綱」を決定した。そこで、65歳以上を一律に「高齢者」と見なすのを改め、将来的には公的年金の受給開始を70歳超でも可能とする制度改正を検討することも盛り込んだ。60~64歳の就業率についても、2016年が63・6%なのに対し、20年に67・0%まで引き上げるという目標も織り込まれた。