小林信也(作家、スポーツライター)

 米大リーグ、イチローのシアトル・マリナーズ復帰が決まった。3月に入っても今季の活躍の場が決まらないイチローにファンも不安を隠せなかったが、ついに44歳のシーズンもメジャーリーグ(MLB)でプレーすることになった。

 入団会見でイチローは「皆さん、よく『50歳まで』という話をされることが多いですけど、僕は最低50歳といつも言っているので、そこは誤解しないでほしいですね」と語った。40歳を超えれば、どうしても年齢の話が多くなる。だが、イチローは年齢で判断されることを嫌っている。年齢より、今の身体の状態、選手としてのパフォーマンスで判断してほしいという。

 「どうやってそこまで過ごしてきたか、ということによって、同じ年齢でも状態としては違うことは当然。そういう見方をすれば、それだけでくくるのはどうなのかな、という思いはあります」

 若いころから、身体の手入れ、日常の管理を徹底して重ねてきたイチローのプライドが言葉からは垣間見える。だからこそ、長いMLBの歴史の中でも、過去に数人しかいない44歳でのメジャー契約を勝ち取ったのだ。

 マリナーズが契約に至った理由は明らかだ。シーズンを前にマリナーズの外野陣が次々とケガで戦列を離れたからである。27歳のミッチ・ハニガーが出遅れている上、25歳のベン・ギャメルが打撃練習中に右脇腹を痛め、4月末までの離脱が決定的となった。マリナーズのジェリー・ディポトGM(ゼネラルマネージャー)は、ギャメルがケガをした翌日、イチローの代理人に連絡を取り、具体的な交渉に入ったという。

マリナーズ入団会見でジェリー・ディポトGM(左)とユニホームを手に
笑みを見せるイチロー=2018年3月7日、アリゾナ州ピオリア(撮影・リョウ薮下)
マリナーズ入団会見でジェリー・ディポトGM(左)とユニホームを手に 笑みを見せるイチロー=2018年3月7日、アリゾナ州ピオリア(撮影・リョウ薮下)
 当初は「MLBの最低保障年俸4万5000ドル(約5千万円)」と報じられたが、どうやら「年俸75万ドル(約8000万円)」だったことが記者会見後に判明した。それは、イチローの年俸が最も高かった頃の約19億円に比べると5パーセントにも満たないらしい。年棒の低さを揶揄するメディアが多かったが、もはやイチローにとって経済的な条件は契約の上で絶対に譲れない条件ではない。出来高契約を全部満たしても200万ドル(約2億1千万円)まで下がったが、契約金額よりも活躍の場が与えられることが何より重要なのだろう。

 昨季マーリンズでは、主に代打だったが、136試合に出場した。これはほぼ毎試合出場していたに等しい数字だが、シーズン通しての打撃成績は215打席、50安打、3本塁打、20打点にとどまった。打率は255。1盗塁を記録しており、MLBで連続18年間、日本プロ野球(NPB)も合わせて25年連続盗塁を記録している。この間、2016年まではずっと二桁盗塁だった。「安打製造機」の性能と並んで、40歳を超えても走れる身体能力を維持していることへの驚嘆と敬意がイチローを「特別な存在」にしている向きもある。