もちろん、農業の岩盤規制に風穴を開けることは重要である。だが、小泉政権の「構造改革」ブームを象徴した言葉「構造改革なくして景気回復なし」という経済政策の誤認識を小泉氏も持っているように思える。ちなみに、それは父親譲りというよりも日本の政治家の大半が抱えている深刻な偏見である。
2018年3月25日、第85回自民党大会の終了後、記者団の質問に応える小泉進次郎筆頭副幹事長(春名中撮影)
2018年3月25日、第85回自民党大会の終了後、記者団の質問に応える小泉進次郎筆頭副幹事長(春名中撮影)
 例えば、構造改革をスムーズに行うためには、マクロ経済の安定が欠かせない。景気がよくなれば、人やモノ、お金の移動もスムーズになる。規制緩和すれば、それによって消費者の潜在的な便益の方が農業生産者の潜在的な損失を大きく上回り、それによって国民全体の生活水準が向上するというのが経済学の基本だ。また、時間が経過していけば、生産側にも経営資源の向上などで農業の生産性自体が実現できる可能性も高まる。

 このような教科書通りのシナリオが現実通りにいくかどうかは、慎重に検討していく必要がある。特に経済全体が不況では、農業生産者が新しい試みをしても社会の購買力が不足してしまい、実現できずに頓挫する可能性が高まる。実際に、日本の長期停滞において、開業率と廃業率を比べると後者の方が継続的に高かった。これは企業ベースの話だが、企業内部や個人事業者のさまざまな試みは、不況期の方が頓挫しやすいことも想像に難しくない。簡単にいえば、「規制緩和≒構造改革」の果実が得られるかどうかの大きな前提条件として、マクロ経済の安定が欠かせないのである。

 だが、そういう発想と小泉氏は真っ向から対立している。例えば、小泉氏が主導した「2020年以降の経済財政構想小委員会」の提言で一時期話題になった、いわゆる「こども保険」だ。現在の社会保険料に定率の増加分を乗せて、それで教育の無償化を狙うスキームである。「こども保険」と呼ばれているが、実体はただの「こども増税」である。

 教育への投資は非常に見返りの大きいものであるため、国債を発行することで、薄く広く各世代がその教育投資を負担することが望ましい。しかも現時点では、追加的な金融緩和の必要性があり、そのために「こども国債」を新たに発行し、それを日銀が市場経由で購入することは、日本のマクロ経済の安定化に貢献するだろう。

 だが、小泉氏のような増税論者=緊縮主義には思い至らない発想でもある。そしてこのような緊縮主義こそ財務省が長年維持している政策思想でもある。ここに財務省が現段階で危機にあるようでいて、むしろ財務省の権力が増加する可能性が大きい理由があるのである。