米海軍特殊部隊のビンラーディン殺害は失敗だった


麻生 伊藤さんたちの特別警備隊が平成13(2001)年に創設されたときは日本で最初に殉職者が出る軍事組織だと言われていました。当時は、明日にも工作船が出現して出動するかもしれないという状況でしたから。

伊藤 特別警備隊ができたとき私は35歳で、40歳まで生きられるわけがないと思っていました。工作船に乗り込んで、船ごと自爆することを覚悟している敵と銃撃戦をするのが任務ですから、一回は生きて帰れるかもしれないけれど、3回行けばどうなるか他の隊員も分かっていましたね。彼らのモチベーションは非常に高く、管理も楽でしたよ。

麻生 伊藤さんのような「変わったやつ」が集まってきていた。

伊藤 自衛隊入隊のときに思ったことですが、いまの日本人、特に若い人間は、国のため、世のため人のために命を捨ててもいいと心の奥底では思っていても、口に出すことは恥ずかしいと感じたり、心の表面に思うことすらも憚ったりする雰囲気がありますよね。自衛隊内でも「おまえ、何で入ってきたの?」と言ったら、「いやあ、騙されまして」と照れたり冗談めかして言ったりする。でも、突き詰めていくと、どの隊員も、そういう気持ちを大なり小なり持っています。その中でも心の表面に近いところで持っている人間たちが、あの部隊に集まったんですね。

麻生 なるほど。回転寿司屋では、みんな100皿くらい食べたそうですが、そうやって生き急いでいるからですか(笑い)。

伊藤 いやいや、100皿かな~。確かに、食べた皿が積み上がって前が見えなくなってはいましたが。

麻生 焼き肉屋では、5人ほどで店の1日分の肉を全部食べてしまったとか。時間制食べ放題のコース。ストップウオッチを持参し、注文してからではなく、肉を網に置いてから、「はいっ、スタート!」(笑い)。

伊藤 いや~、そんなこともありましたね。炭火が弱かったんですよ。店員に「こっちは、一分一秒争ってるのにこの炭はなんだ」と言って時計を止めさせて、炭を替えて、それからまた始めたこともありました。そして、90分食べ放題コースをダブルヘッダー、計3時間食べてましたね。

麻生 それが特殊部隊員の食欲なのですね。特殊部隊といえば、昨年五月にオサマ・ビンラーディンを殺害したアメリカ海軍の特殊部隊「Navy SEALs」が注目されました。

伊藤 ビンラーディンを殺害したのは、シールズの中でも最精鋭のTeam6ですが、私は、あの作戦は完全な失敗だったと思っています。彼らに命じられたミッションはビンラーディンの生け捕りだったはずなのに、射殺してしまったからです。殺害を許可されていたのなら、本人と確認さえすれば手榴弾の十発でも放り込んで肉片にできます。にもかかわらず、なぜ生身の身体をさらして居宅内に突入したのか。生け捕るはずだったとしか思えません。アメリカの外交政策上も、生け捕りにしたほうが利点は多かったはずです。

 生け捕りにするなら丸腰であったってできる話です。それなのに、彼らは飛び道具を持って突入し、射殺した。なぜ、撃ったんだということです。突入隊員の身を守るために撃ったんじゃないかと考える人もいるかもしれません。いいんですよ、守らなくて。ミッションを考えたら一番大事なのはビンラーディンの命なんです。繰り返しになりますが、軍人にとって任務は命より大切です。

 それは軍人の命が軽いということではありません。被害を出さない、あるいは最小限にとどめるべく戦術は練ります。しかし、それでより多くの人間の命を助けることができるのだという大局的判断に基づいて下された命令だからこそ、軍人は命を捨ててでもミッションを完遂しなければなりません。

 はじめに10人が撃たれたとしても、11人目が任務を遂行すればいい。例えば、この部屋(6畳ほどの広さ)に特殊部隊が10人突入してきたとしたら、ボディガードが3人いたとしても防御できませんから。

麻生 (立ち会いの本誌編集部員に)伊藤さんに突入してもらったらどうですか。ものすごい迫力ですよ。伊藤さんのお話の意味が一発でわかると思いますけど。
 
 編集部員二人が、ボディガードとボス役となって伊藤氏に実演してもらう。ガード役が部屋のドアから2メートル、ボス役が3メートルほどの位置に立つ。部屋の外から『行きますよ~』という伊藤氏の声。“ドーン”と踏み込む大きな音が聞こえたと思った瞬間には伊藤氏が持っていた傘の先がガード役の編集部員の胸元にあった。『それを見て、“うわっ”と思った瞬間には背後から首を腕で締められていました』(ボス役編集部員)。2人とも一歩も動けず、手を上げることさえできなかった。
 
麻生 この通り、「ドーン」という音がした瞬間には、ボディガードは倒されているわけです。

伊藤 ボディガードも訓練していますし、最初に突入した隊員は弾を数発食らって死亡するでしょう。しかし、その後ろから殺到する突入隊員はもう手が届きそうな間合いまで迫ってきています。ということは、銃を構えたボディガードが3人いたとしても、武器なし10人が突入すれば十分制圧できるわけです。

 ですから、ビンラーディンの殺害にはプロフェッショナリズムが感じられないんです。「軍人にとって絶対である任務達成というものを、自分たちが生きたいがために捨てたのではないのか」という疑問が消えません。