山田順(ジャーナリスト)

 2月7日夜、「テレビ朝日」の特番『独占緊急特報!! 貴乃花親方すべてを語る』の放映があった。食い入るように見たが、見終わった後もなお、すっきりしない。これだけ言うべきことがあったなら、貴乃花親方はなぜ、そのときどきに主張してこなかったのか? なぜ、理事選が終わったいまになってから言うのか? なぜ、いくら弟子とはいえ、当事者の貴ノ岩を囲い続けて話させないのか? という疑問が残ったからだ。

 ただし、貴乃花親方の主張ははっきりしており、この点に関してはまさにそのとおりだと思った。とくに、九州場所中に八角理事長や鏡山親方らから被害届の取り下げを打診されたことを、「はい。そういうことです」と肯定したことで、彼が今回のことで取り続けてきた態度(沈黙を含め)の原点が理解できた。

 そうであるなら、インタビュアーの山本晋也監督に「協会に対して戦いを挑みますか?」と聞かれ、「気持ちは戦います」と答えたことには納得がいく。

 八角理事長以下、執行部の面々は、ともかく日馬富士暴行事件をなかったことにしてしまうか、あるいは最小限の不祥事にとどめて処理したかった。彼らは、“なあなあ”という「組織の論理」に生きる人々であったわけだ。

 これまで、ワイドショーをはじめとするマスメディアは、「相撲協会=悪、貴乃花親方=正義」という構図で、ずっと、この問題を報道し続けてきた。こういう対立構造がいちばん単純に物事を伝えやすいし、また、視聴者、読者を惹きつけるからだ。

 しかし、その結果、「貴乃花親方=正義」側にある数々の問題点はスルーされた。そのため、正義感の強い坂上忍氏のような司会者から落語家の立川志らく氏など数多くのコメンテーターが誘導され、みな“貴乃花擁護論”を展開してきた。
報道陣の取材に応じた貴乃花親方=2018年3月28日、エディオンアリーナ大阪(撮影・岡田茂)
報道陣の取材に応じた貴乃花親方=2018年3月28日、エディオンアリーナ大阪(撮影・岡田茂)
 もちろん私は、このことを冷ややかに見てきた。なぜそう見てきたのか? ここではその理由を整理して書き留めておきたい。

 「スポニチ」が春日野部屋での4年前の暴行事件をスクープし、フジの「とくダネ!」が被害者の矢作嵐さんのインタビューを放映した。しかし、貴乃花部屋でも同じような暴行事件があったことは報じなかった。

 貴乃花部屋の引退力士・貴斗志が貴乃花親方に無理やり引退届を出されたとして、2015年3月、相撲協会を相手取り「地位確認等請求」「報酬の支払い」などを求めて東京地裁に提訴。この裁判の過程で、貴斗志は、なんと今回の日馬富士暴行事件の被害者・貴ノ岩から暴行を受けたと主張。さらに2人の元貴乃花部屋の元力士が証言台に立ち、貴ノ岩や同じく貴乃花部屋の現世話人である嵐望などから暴行を受けたと証言している。