橋本強司(著述家、開発コンサルタント)

 日本相撲協会の暴力問題が後を絶たず、隠蔽体質も改まる気配はない。協会の「暴力体質」といえば、問題が生じるたびに世間の批判を受けて反省し、その都度対策をとるにもかかわらず、暴行が繰り返されている。暴力の根絶を含む協会改革を訴えてきた貴乃花親方ですら、自らの部屋の暴力を防げなかったことに象徴されている。

 では、内閣府に告発状を出してまで、相撲協会幹部と対決する姿勢を見せていた貴乃花親方が、十両貴公俊(たかよしとし)の「暴力事件」をきっかけになぜ「豹変(ひょうへん)」したのか。この点から相撲協会の暴力体質を論じなければ、協会の抜本的改革にはつながらないと私は考える。ただ、そのような議論が公には出ないというのも、恐らく日本社会の根底にある一種の「暴力体質」と言えるかもしれない。

 貴乃花親方が豹変したのは、何より貴公俊に対して寛容な処置を願うからに他ならない。だが、貴公俊は今日の理事会において1場所出場停止処分を受け、貴乃花親方も「委員」から「年寄」へ2階級降格した。「暴力はいけない」という一緒くたにされた議論によって、貴公俊は一時、引退勧告を受けかねない状況に追い込まれたのである。実際、今回の貴公俊の暴行事件について、場所中の支度部屋での暴行だからと、前例のない重大事として論じる向きがあった。また、大手メディアも、今回の暴行をこれまでの問題と同列にして、批判的に論じるだけである。
2018年1月、十両昇進が決まり会見する貴公俊(左)と同席した貴乃花親方(桐山弘太撮影)
2018年1月、十両昇進が決まり会見する貴公俊(左)と同席した貴乃花親方(桐山弘太撮影)
 だが、相撲部屋は、親方とおかみさんを「親代わり」とする「家族」である。語弊を恐れずにあえて言うなら、貴公俊の暴力は「兄弟げんか」なのである。もちろん貴公俊には非があり、それは貴乃花親方が誰よりもよく認識している。だが「兄弟げんか」である以上、本来は親方とおかみさんが指導すれば済むことである。

 だからこそ、「子供」である力士を救うために、親がその地位も主張も、もちろん改革の意思も投げ出すのは当然ではないだろうか。「家族」内での「兄弟げんか」をきっかけとして貴乃花親方と貴公俊が置かれている状況は、それほど危機的なのである。

 そのような危機的状況を作り出した体質こそ、私が相撲協会の「暴力体質」と呼ぶものである。先の理事候補選挙で、相撲協会はいざというときの見事な内部統制を披露した。そのほか、相撲記者クラブを通じて情報を流して大手メディアを操作したり、興行上の配慮を優先し、外部批判を受け流して内部告発を押さえ込もうとする姿勢を見ても、相撲協会が恐るべき組織であることがわかる。幹部がその気になったら、一力士に引導を渡すことぐらいなんでもないだろう。このような「親方日の丸」の大組織の暴力体質を、貴乃花親方が恐れるのは当然のことである。