仮に、安倍首相が今年の春闘で呼びかけた3%の賃上げを、経済界が採用したとしても、年収が倍になるまでには計算上23年もかかる。23年かかっても、それが「普通」の状態である。むしろ、それすら実現していなかったのが、アベノミクス以前の日本経済の「失われた20年」だったのである。

 さて、話を現在の政権支持率に戻そう。実は、佐川氏の証人喚問を見る前から、筆者はラジオやTwitter(ツイッター)などで、証人喚問が終わればマスコミと野党は必ず「ますます疑惑は深まった」と盛んに言い立てるだろうと予測した。いわば「疑惑のインフレーション」である。

 その理由は、今回の証人喚問は、マスコミにとっても野党にとっても政権へのイメージダウン以外の目的を見いだしにくいからだ。実際に政治家慣れしている佐川氏の証言を野党は全く切り崩すことができなかったし、どうみても切り込む手段にも欠けていた。

 喚問が終わると、野党は「安倍昭恵首相夫人の証人喚問を」と声を連ね、それを一部のマスコミも連日大きく取り上げるだけだろう、とも思った。だが、この連載でも何度も指摘しているように、森友学園問題に昭恵夫人が土地取引で「関与」した事実はいまだない。それでも、マスコミの洗脳めいた報道がよほど効いているのかもしれない。

 筆者も学術界の年配の方々と最近話す機会があったが、いずれも「8億円の値引きを忖度(そんたく)させたのは昭恵夫人」説を信じ込んでいた。そもそも「忖度」も「忖度させたこと」も心の中の問題なので、実証はできない。

 また現段階で、森友学園前理事長の籠池泰典被告の証人喚問での証言や、財務省の当事者たちも昭恵夫人の関与を否定している。そして忖度罪も忖度させた罪も日本の法律にはない。だが「関与」も「忖度」も、お化けのように膨れ上がった存在と化している。

 このような「魔女狩り」にも似た世論の一部、政治の在り方を批判するのも、マスコミや言論における本来の役目のはずだ。今はどうひいき目にみても、反安倍と安倍支持に分断してしまっている。これは憂うべき事態である。
2018年1月、山口県下関市で支援者と談笑する安倍首相(右)。左は昭恵夫人
2018年1月、山口県下関市で支援者と談笑する安倍首相(右)。左は昭恵夫人
 世論調査の動向によって、安倍政権が万が一レームダック(死に体)化すれば、経済政策や安全保障政策を中心に不確実性が増してしまうだろう。特に経済政策では、「ポスト安倍」を狙う自民党内のライバルは総じて財政再建という美名を利用した「増税・緊縮派」である。

 また、消費増税や緊縮財政はマスコミの大好物でもあり「応援団」にも事欠かない。自民党内のポスト安倍勢力が今後、世論の動向でますます力を得れば、日本経済にとって不幸な結果をもたらすだろう。