野尻俊明(流通経済大学学長)

 最近、引っ越しをめぐる問題がにわかにクローズアップされている。今年は3月末、4月初旬に引っ越しを業者に依頼しても応じてもらえず、希望の時期に予定していた引っ越しができない「引っ越し難民」が発生するのではないか、との懸念が高まった。

 各種マスコミでも、利用者や引っ越し事業者を取材して警鐘を鳴らしており、ますます危機感が強まりつつある。実際、2月27日の石井啓一国交相の定例会見で「引っ越し難民」を取り上げ、引っ越し事業者に適切な対応を求める、という異例の表明をしている。
 
 ところで、昨年は「宅配便クライシス」という言葉が生み出され、ネット通販の急激な普及に伴う宅配貨物の急増に宅配便のシステムが追いつかず、「物流の危機」として大きな社会問題となった。今日では、物流は社会的インフラの一つとして認知され、市民生活に不可欠のサービスとなっているが、国民一般の物流に対する認識は多くが旧態依然と言える。
 
 このおよそ50年間、わが国ではトラック運送事業の発展で常に物流の供給過多の状況が続き、必要な時にいつでも低価格(運賃)で高質なサービスが入手できるという時代が続いてきた。しかしながら、現在のわが国の物流の実情は従来と状況が一変している。

 実は、これまで3月に物流ニーズの急激な高まりで物流の供給がタイトになり、混乱を来したことは経験済みであった。2014年3月に翌月からの消費増税を控えて「駆け込み需要」の発生により、物流が混乱し引っ越しサービスにまで大きな影響を及ぼす事態が生じていた。

 これを機に、企業の中には人事異動の時期をずらしたり、計画を事前に作り引っ越し事業者と打ち合わせをするなど、分散化の対応を取ってきている。しかしながら、今年はかつてないほどの危機が叫ばれている。この背景にはさまざまな事情があるが、大きな理由は引っ越し需要の「繁閑の極端な格差」と「人手不足」の問題であるといえる。
(画像:istock)
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 この両者は切っても切り離せない関係にあるが、まず前者については、例年3月には通常月の約2・5倍の引っ越し需要があるという極端な波動の存在である。4月に新年度、新学年が一斉にスタートするという社会慣行の中で、引っ越し事業者は経営的に苦しみ抜いてきた。

 特に、今日の引っ越しは主として「引っ越し専業者」がサービスを提供しており、かつてのように一般的なトラック運送事業者が繁忙期だけ引っ越しサービスを提供するというケースは少なくなっている。利用者が引っ越し運送に付随する各種サービス(エアコンの取り付け、各種手続きの代行等)を求めるという傾向があり、引っ越し作業には多くのノウハウと熟練を保有する作業員が必要とされることも要因の一つと言える。