加谷珪一(経済評論家)

 今年の春は、引っ越しに大きな異変が起こっている。希望通りの日程で引っ越しができないという、いわゆる「引っ越し難民」の問題である。例年、この時期は転勤や入学などで引っ越しが集中する。だが、日程を調整しても、引っ越しができないというほどの事態になったのは今年が初めてだと考えられる。

 全日本トラック協会が発表した引っ越し混雑予想カレンダーによると、3月24日から4月8日にかけてが混雑のピークとなっており、この期間については、見積もりを依頼しても事業者から断られるケースが続出している。仮に引っ越しが出来ても、例年の数倍という高額料金が請求されることもあるようだ。

 引っ越し事業者が予約を断ったり、高額の料金を請求しているのは、配送に携わるドライバーを十分に確保できないからである。1月時点における「自動車運転の職業」の有効求人倍率は3倍を超えており、ドライバーの確保が極めて難しくなっている。

 ドライバーの求人には特別な事情もある。サービス残業の横行で批判を浴びた宅配事業者が、長時間残業対策としてドライバーを大量に採用。短期ではなく長期の契約や正社員への登用も進めたことから、期間限定で引っ越し事業に従事するドライバーの数が減少しているのだ。これが引っ越し事業者の人手不足に拍車をかけた。

 だが、足りないのはドライバーだけではない。梱包などを行う作業要員の確保にも苦労している。以前なら、皆が長時間労働をこなして何とか乗り切っていたはずだが、労働時間管理の厳格化からそれも難しくなった。結果として、もっとも注文が多い時期であるにもかかわらず、引っ越し事業者は顧客の注文を断る状況となっている。

 この影響は、別の業界にも及んでいる。引っ越し集中期間での転居をあきらめ、時期をシフトする人が増加したことから、新幹線の乗客数が減少。金券ショップにおける新幹線のチケット価格が下落している。人の移動が同じ時期に集中していたことがよく分かる話だ。
※写真はイメージ(iStock)
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 整理すると、これほどの状況に陥った直接的な原因は、宅配再配達問題をきっかけとしたドライバー不足や、働き方改革に伴う残業時間規制ということになるだろう。だが、この問題にはもっと根源的な理由が存在している。それは、若年層労働力の絶対的な不足である。

 日本における15歳以上、35歳未満の人口は過去20年間で3割近くも減少した。引っ越しに限らず、サービス業の現場では常に人が足りず、若年層労働者をつなぎとめておくことが難しくなっている。待遇が良くない業種や仕事がきつい業種はその傾向がさらに顕著である。