津田岳宏(弁護士)

 話題の統合型リゾート施設(IR)実施法案について、ギャンブル依存症対策として、日本人へのカジノ入場制限を課し、さらには入場料を徴収するという措置を取る方針だという。アメリカの神経科学者、デイヴィッド・リンデンの『快感回路』(河出書房新社)によると、依存症は脳の病気だという。人が何かに快感を覚えるとき、脳内の小さな一領域である内側前脳快感回路(快感回路)と呼ばれる部分が、刺激されて興奮する。

 薬物であれ、ギャンブルであれ、高カロリー食であれ、あるいは慈善的な寄付行為であれ、人が快感を覚えるときには、例外なく快感回路が興奮している。薬物に手を出している人と、ボランティア活動で喜びを感じている人とで、脳内で起きている現象が同じというのは興味深い話である。

 社会動物である人間は、社会的評価を受けると快感回路が強く刺激される。特に、快感回路内の「側坐核」「背側線条体」と呼ばれる部分が活性化するのだが、実は金銭的報酬で活性化する部分と同じらしい。金持ちが政治家になりたがるのは、どうやら科学的に説明できるという。

 依存症者は、快感を感じ取る快感回路に異常が生じている。それは具体的に言うと「鈍く」なっているということである。普通の人と同じ量では快感がない。必然、より多くの量を求めるようになる。するとますます「鈍く」なる。さらに量を求める。この悪循環が依存症を進行させていく。

 薬物依存症者は、他の人よりも薬物を欲しがるけれども、他の人ほど薬物が好きではないように見える。言われてみれば、私が麻雀店でアルバイトをしていた学生時代、「もう麻雀はあまり面白いとは思わない」と言いながら毎日来ている客がいた。それはもしかしたら依存症の初期症状だったのかもしれない。依存症予防の観点からは「昔ほど面白くないけど何となく…」と感じた時点で少し距離を置いた方がいいようだ。

 依存症が進行していくときの快感回路の変化は、経験や学習によって記憶が貯蔵されていくときの神経回路の変化と同じである。皮肉なことに、人は経験によって学ぶ能力があるからこそ依存症にもなり得るのだという。

 『快感回路』にはギャンブル依存症についても詳細に記載されている。ギャンブルの快感は、惜しい負け(ニアミス体験)によって増幅されていく。惜しい勝負が空振りするほど続けたくなるのだという。これはギャンブルファンなら実感できるかもしれない。ギャンブラーがもっとも快感を覚えるのは、結果が出るまでの待ち時間なのだという。スロットやルーレットが回っている時間や馬が最後の直線に入ったときに、快感回路がもっとも刺激されるわけだ。
(iStock)
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 確かにギャンブルには快感が伴うが、全てのギャンブラーが依存症になるわけではない。誰もが食事をし、買い物をし、多くの大人は酒を飲むが、ほとんどの人は依存症にならない。同様に、たいていの人は時折ギャンブルを楽しむだけで、病的にのめり込んだりしない。

 しかし、少数のギャンブラーが依存症になるのは事実だ。ギャンブル依存症の特徴は、女性より男性がはるかに多く、しかも遺伝することが多いという現実である。そして意外なことに、ギャンブル依存症者にはビジネスの世界で大きな成功を収める精力的な人物も多いことも挙げられる。少し前に著名な実業家がカジノで大枚をはたいた事件が有名となったが、当該人もビジネスマンとしては非常に優秀だったと聞いたことがある。