鳥畑与一(静岡大教授)

 カジノを含む統合型リゾート(IR)解禁に向けた「世界最高水準の依存症対策」の政府案が2月末に明らかにされ、とりわけ「1週間3回以内」、「1カ月(28日)10回以内」というカジノ入場回数制限が賛否の的となった。依存症対策としては甘すぎるという批判の一方で、カジノの収益性を損なうものという批判も出され、自民党プロジェクトチーム(PT)からは「1カ月10回以内」に絞り込むよう要望がまとめられている。

 ギャンブル依存症は、ギャンブル行為を通じた脳に対する刺激による脳の変化(ドーパミンの過剰分泌など)による病気であり、ギャンブルの「頻度×継続時間×賭け額」の大きさが客観的原因(いわゆるエクスポージャー理論)とされる。

 英国ノッティンガム大教授のM・グリフィス氏らによれば、個人的要因のほかに、居住地からカジノ施設の距離、カジノ数、賭け行為の間隔や時間、賭け金額、勝つ確率などの状況的・構造的要因が依存症を誘発する客観的要因とされている(『欧州における問題ギャンブル』2009年)。

 例えば、米国のJ・H・ウェルテ氏らの依存症実態調査によれば、カジノに近いまたはカジノ数の多い住民ほど常習者(週2回以上の頻度)になる確率が高く、そして常習者ほど依存症率が高いことが明らかにされている。

 従って、カジノへの入場回数の規制は、政府案も認めるように一般論としては依存症対策として有効である。問題は、政府提案の入場制限数が依存症対策として有効であるか否かであるが、結論から言えば、提示されている入場制限数は、依存症を促進するものであっても抑制する水準ではない。カジノへの入場禁止を行う「自己排除(Self Exclusion)」制度を導入している国は欧米でも多くみられるが、入場回数制限を行っている国は韓国とシンガポールなど稀(まれ)である。

 そこで政府案では、1カ月で15回以内の韓国と8回以内のシンガポールの事例を参考に提案を行っている。しかし、政府提示の入場制限数の具体的根拠は、国民の休日数や平均的な旅行宿泊日数との適合性であって、この回数が依存症対策として有効か否かの検討が行われているとは思えない。
※写真はイメージ(iStock)
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 例えば、韓国で国民に唯一解放されているカジノであるカンウォンランド(2000年開業)で2006年から開始された入場回数制限は1カ月15回以内(地域住民は月1回のみ)だが、それが2カ月連続した場合は入場を制限し、カウンセリング実施などの措置が取られている。

 韓国のKL依存症管理センターは、入場回数で依存症発生リスクを区分しているが「2カ月連続15日出入を繰り返すなど年間100日以上の常習出入」を高リスク、「2四半期連続で30日を超える顧客など年間100日以上の常習出入」を中リスクと位置付け、高リスク利用者には「特別管理(義務カウンセリング、病院治療など)」や「本人/家族への出入禁止を強く誘導」などの対策を適用している。