とはいえ、シンガポールの自己排除制度は、表3に見るように大きな役割を発揮している。これは独立組織であるNCPGが自己排除制度の運用を担当し、依存症の危険性や自己排除制度の宣伝や申請のしやすさなどの促進に非常に力を入れているからである。
資料:NCPG「Active Casino Exclusion & Visit Limit」
資料:NCPG「Active Casino Exclusion & Visit Limit」
 ここでも注目されるのは、政府から何らかの財政的補助や法的支援を受けている者や自己破産者らの家計困難者は自動的に入場禁止を課す自動的入場禁止措置の存在である。この結果、入場禁止措置を受けているシンガポール市民らは、自己申請、家族申請、自動排除の合計で7万774人(成人人口比約2・3%)に達している。

 カジノ経験率(2011年7%から14年2%に低下)から推計されるカジノ利用市民約6万余を上回る規模の市民が入場禁止措置を適用されているのである。入場回数制限と共にこの自己排除制度による入場禁止措置が、シンガポール市民のカジノ利用の抑制策として非常に有効に機能したことが依存症率の低下に貢献したものと推測される。

 日本においても「世界最高水準」を標榜するならば、シンガポールNCPGのような独立のギャンブル依存症対策機関による自己排除制度の運用が欠かせないと言える。

 シンガポールでは、入場料徴収(1回100シンガポールドル、年間2000シンガポールドル)の他、市民対象のカジノの宣伝や勧誘活動の禁止、ATMの設置や市民への信用供与の禁止を課す一方で、NCPGなどを通じたギャンブル依存症の危険性の啓蒙宣伝活動が盛んに行われている。これが可能なのは、シンガポールのカジノ客のほとんどが中国などの海外からの来客で占められており、シンガポール市民に依存しなくてもカジノの高収益確保が可能だからである。

 外国客向けには高額の賭け資金貸付も行うジャンケットも容認されており、LVサンズなどのカジノ事業者はその巨額投資を5年ほどで回収できるほどの高収益を維持しているが、ジャンケット禁止を予定している日本において、シンガポールと同様の高収益獲得の条件が乏しいのは明らかである。
シンガポールの観光の目玉となっている「マリーナベイ・サンズ」=2018年3月(鳥越瑞絵撮影)
シンガポールの観光の目玉となっている「マリーナベイ・サンズ」=2018年3月(鳥越瑞絵撮影)
 国内客を主要ターゲットとせざるを得ない外国カジノ事業者にとって、日本政府が求める巨額投資を行いつつ、出資者が求める短期の投資回収を可能にする高収益を実現する上で、シンガポール並みの依存症対策を実行することは不可能である。

 刑法の賭博禁止の違法性を阻却するためにIRの経済効果の大きさを強調するほど、収益エンジンとしてのカジノと依存症対策が両立不可能な隘路(あいろ)にはまり込んでいるのではないだろうか。